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レジアスの提案を受け入れ、新設された時空管理局本局古代遺物管理部機動六課に配属されることになった光太郎は、話が決まった数日後には機動六課の宿舎に引越しを終えていた。 光太郎の住んでいたアパートは、完全に破壊されておりとても人が住めるような状態ではなかったので、引越しを余儀なくされたのだった。 最初は、はやてが同じミッドチルダに居を構える八神家が機動六課が本格的に活動を開始する翌年四月まで自分たちの家に住まわせることをニヤリと言う擬音が付きそうな邪悪な笑みを浮かべながら提案したが、 それを聞いたフェイトが慌てて止めに入り、まだ破壊された箇所の修復も終わっていない宿舎へ入居する…そういうことになった。 わざわざ休みを取って引越しを手伝ってくれるフェイトに礼を言いながら、光太郎は思いのほか自分の荷物が使用可能な状態で残っていた事に疑問を感じていた。 フルオーダーで作られたスーツ、彼女からプレゼントされた懐炉やセッテに誕生日にプレゼントされたバイクの手入れ道具まで残っている……光太郎は一つ一つ確認するのを止めて、無事な物を集めて適当に並べてくれるよう頼んだ。 だがそれらが残っていたのが嬉しいような切ないような気持ちにさせられる反面、外に停めてあったベスパまでが無事となると、光太郎だけでなく引越しを手伝うフェイトも首を傾げざるを得ない。 偶然にしては出来すぎている。 だがこれらを残しておいて、スカリエッティにどんなメリットがあるのか皆目見当が付かなかった。 「フェイトちゃん。残りは後でやっておくよ」 「くすっ、遠慮しないでください。あ、抱き枕はここでいいですか?」 「抱き枕?」 光太郎が振り向くと、フェイトがベッドの傍でコスプレをした彼女らの姿がプリントされた長い棒を両手に抱えて立っていた。 「はやてからのプレゼントです」 「……ありがたく受け取っておくよ。普通に枕として使えばいいのか?」 迷った末、好意を無碍にすることも出来ず光太郎は受け取る事にした。 「いえ、こうです」 尋ねる光太郎にフェイトはベッドの上にごろんっと横になり、両手と両足で枕を挟み込んだ。 金色の川がセットしたばかりのシーツの上に流れ、枕に頭を載せたフェイトの無邪気な目が光太郎を見上げていた。 無防備な少女を可愛らしく思う反面、少しはしたないとも感じる自分に年齢を感じた光太郎だった。 (抱き枕は使わないでおこう) 寝転がるフェイトを見ながら光太郎は心に決めた。 (また事件のことでも考えてるのかな? 私に相談してくれたらいいのに) 余りに深刻な顔をする光太郎にその考えはフェイトにばれる事はなかった。 一方、レジアスには六課に入れと言われたが、それはRXとしての活動に変化を及ぼさなかった。 レジアスが声をあげるまでもなく、RXの今後について懸念する声が以前陸に配属されていたことのあるはやて達の元へ届き、 配属は機動六課だが活動は今までと同じくミッドチルダを守ることになったのだった。 人づてに光太郎が聞いた話に拠れば、はやてが「師匠」と呼ぶ研修先の部隊長ゲンヤ・ナカジマからも「市民のヒーローを独り占めったあ穏やかじゃねぇな…」に始まる苦言が届いて涙目になったらしい。 どこまで本当かは当人しかしらないが、所属していることも表向きは秘密となるらしく機動六課には本当に一応いるという程度になるようだった。 そうした事情から、部隊長であるはやてには宿舎の破壊で凹んだ件に続き、事件が発生すると全力で現場に行ってしまう上おおっぴらに所属している事も明かせないRXにどの仕事を振るかという難題が課せられることになった。 話を聞いた直後の、はやての当初の考えでは、部隊に組み込むことを考えていた。 部隊には幾つかのポジションがある。 単身で敵陣に切り込んだり、最前線で防衛ラインを守るフロントアタッカー。 どの位置からでも攻撃やサポートをするガードウイング。 仲間の支援をするフルバック。 チームの中央で誰よりも早く中・長距離戦を制する役目を負うセンターガード。 RXはこの内フロントアタッカーかガードウイングに置き、チャチな魔法を受け付けないRXを盾にセンターガードに入れたなのはの桃色破壊光線で鎮圧ということを考えていたのだが… 任務中にいなくなる事はなくとも、目の前のことに向ける集中力が違ってくるかもしれない。 RXを信用しないわけではない。 ミッドチルダに居を構えているのでニュースを通して戦果は聞いていたし、RXの能力が分からなければ困るのでスキルを書いた履歴書を書かせ、 それに目を通したはやてはRXの能力を最もよく知り、信頼する一人になっている。 だが以前、同じように信頼していたなのはは重傷を負い、友人であるクロノの父親は任務中命を落とした。 ロストロギアを扱う任務はいつ何が起こるかはわからないのだ。 はやては暫く迷った末、本人の希望通りにして結論を先延ばしにする事にした。 光太郎は自らを鍛え直すことを希望しており、機動六課も最初は新人の教導を行う予定となっている。 RXと隊長陣の連携を強化したりということは出来そうにないが、いきなりRXと組ませても彼等ならそれ程作戦行動に支障はないだろう。 はやてがそれを決めたのは夜遅く、六課の正式な活動開始までもう一週間を切り、リミット間近になってからだった。 他の仕事で手一杯で先延ばしになっていたRXの当面の処遇を決めたはやては、自室で休んでいるはずの彼女の家族シグナムを自室に呼び出した。 もう休んでいてもおかしくない時間だったが、シグナムはすぐに駆けつけた。机を挟み、直立するシグナムにはやては笑顔で告げる。 「遅うにごめんな、シグナム。RXはアンタのところに入れることにしたわ。特訓希望らしいから新人4人の横ででも特訓に付き合ったげてな」 「はっ…しかし、主はやて」 「なんや?」 てっきり喜ぶと思っていたはやては首を傾げた。 「新人達の横でそんなことをすれば、彼等が集中できなくなるのではないでしょうか?」 はやては一瞬耳を疑ったが、シグナムの真剣な表情を見る限り本気で言っているらしい。 はやては失望したようにため息を漏らした。 主の反応に困惑するシグナムを見据えながら、はやては唇を左右に持ち上げ、邪悪な笑顔を作った。 悪気など一片もないようだが、邪悪だった。 「シグナム。ここはせめてテスタロッサが集中できなくなりますが…くらいのことは言ってくれんと困るで」 「な、何をおっしゃるんです!! テスタロッサがそのようなことで仕事に手を抜くはずがありません!! ましてや私が…光太郎は今テスタロッサと付き合っているのですよ?」 はやてはまたため息をついた。 が、シグナムの今の言葉から光太郎に気がありそうなのでよしとする事にした。 はやての笑顔は、更に邪悪になっていた。 「うちはな、スカリエッティはまだ同居してた二人を使って何かしてくる…そう思ってる」 「はい。でなければ奴が二人を浚った件に説明がつきません」 「ちゃうちゃう」 はやては手を横に振ってシグナムの考えを否定した。 「争ったにしてはRXの荷物が多すぎるんよ。あんなん口裏合わせて出て行ったに決まってるやん」 「なっ…ですが主はやて。それならばどちらかはRXと共にいた方が都合がいいのではないでしょうか?」 「そうやな。うちもそこまではよう分からん…けどな」 はやてはそこで言葉を切り、ズイィッと体を前に乗り出した。 「シグナムもわかってるはずや。フェイトちゃんに隙がある…断言してもええ!! スカリエッティはまだなんか企んでる!! 隙だらけのフェイトちゃんやと光太郎さんを取られるのがオチや!! それでもえんか!?」 「そ……そうならないように支えてやればよいことではありません」 シグナムが一拍程言葉に詰まったのを見て、はやては机を叩いた。 はやてがそんなことをするのはとても珍しい事で、主の剣幕にシグナムは動きを止めた。 「シグナム。あんた程の女が何を迷う事がある!!奪い取れ!! 恋愛っちゅうもんはな、悪魔が微笑む時代なんよ!!」 そう言い切るはやてに一瞬シグナムは呑まれた。 十年来の親友に対しての容赦ない命令は、正に外道…だが一瞬後には、机の上に書類と一緒に置かれている漫画が目に入って気を取り直す。 「…ジャギ? …また何か新しい漫画ですか?」 「そ、それは今は関係あらへん……!! 冗談は言ってないんよ」 語気を弱める主にシグナムは微笑んだ。 「…分かりました。主はやてのご意向に沿うよう全力を尽くしましょう」 「! ありがとうな、シグナム。うちはあんたみたいな守護騎士がおって幸せやわ~」 椅子に座りなおし、うんうんと頷くはやてにシグナムは一枚の書類を差し出した。 「ではまずこれを…」 「ン? …えーっと、ザフィーラに免許を取らせる?」 「はい。特訓に使います」 それだけでは要領を得ず、はやては書類を読み進め…進めるうちに顔には苦笑いが広がっていった。 「偽ライドロンを使うって…本気なん?」 「はい。破壊は修理可能なレベルに留まっていたようです」 「これをザフィーラに運転させるんか…」 「はい、RXを轢きます」 真顔で言うシグナムにちょっと引きはしたものの、はやてはGOサインを出した。 何が効果的か分からない以上、『まぁやってみれば?』というのがはやての結論だった。 彼女の知る一号ライダーも鉄球に弾かれたような気がするしと、一号の技辞典をついでに渡しておく事も忘れなかった。 「あ、それと…RXが入るって事は一応秘密やから」 シグナムははやてに礼をして部屋を出て行った。 それからは、機動六課が動き出すための準備に追われ、矢のように日々は過ぎ去っていった。 * 『ギン姉へ 機動六課へ配属されて始めての訓練がありました。 何故か隣ではRXが特訓をしていました。 何を言っているか分からないと思いますが、私にも何が起こってるのかわかりませんでした。』 ……ぐしゃッ 「はいあうとー」 「はいですー」 機動六課が活動を開始した初日の夜、はやては新入り隊員が家族に送ったメールをプリントアウトした紙を握りつぶした。 RXが配属された事は、謎のヒーローであったはずのマスクド・ライダーが管理局入りしたというのは悪い意味でショックを与えると上が判断したため、一応秘密ということになっている。 と言っても陸士の隊長なら知ってる公然の秘密となりそうではあるし、このメールの送り主スバルのように親類に教えようとするのが後を絶たない。 それを手伝うリインは気の抜けるような間延びした口調で相槌を打ちながらメールを送った者達へ注意勧告を行う。 リインは掌サイズの小さな体で、実に愉しそうに作業を進めていく。 「だめですよーっと」 「あんまりキツく言わんでもええよ」 リインには他の仕事を手伝ってもらう予定だったのだが、なんだか予定よりドンドン手間ばかり増えているような気がするはやてだった。 そのことで相談に来ていたRXは表情にでないまでもなんとなく申し訳なさそうだった。 RXが六課にとっては扱い辛い存在になるだろうと光太郎も予想していたが、かなり難儀させてしまっているように光太郎の目には見えたのだろう。 「スマン」 「ええんよ。それより特訓の方はどうなん?」 「今日は軽く流しただけだ。まだどうすればいいか検討もついていないからね」 はやては眉をひそめた。 今日は特訓初日と言う事で軽く偽ライドロンに追突され、転がされるだけだった。 そういう話をシグナムとまだ免許を取って間もないのに人間を轢けと言われて早くもうんざりしているザフィーラから聞かされていた。 ザフィーラははやての演説が終わり、なのはが早速新人4人の教導を開始するのに合わせて彼等が訓練しているフィールドの隅っこに呼び出されたという。 そこには去年の事件で回収された偽ライドロンと、打ち合わせをするシグナム。そしてRXがいた。 置かれていた偽ライドロンは本部でも完全に元に戻す事はできなかったらしく、痛々しい姿だった。 装甲の材料が不明だった為質感の違う装甲が溶接され、エンジンは目的を報告するなり送られてきたらしい。タイヤなどのパーツ込みでだ。 はやてはそれにスカリエッティの影を見たような気がしたが、兎も角ザフィーラは人間の姿になり、ライドロンを走らせる事になった。 目の前に立つRXへと一直線にだ。RXは、事件と同じようにライドロンを受け止め…事件の時よりパワーアップしている偽ライドロンにあえなく力負けして、運悪く倒れてしまった。 『ウォォォォオオオッ!!』 路面を走るのとは全く違う、明らかに何か踏みましたよね?という異物感にハンドルを握っていたザフィーラの掌にじっとりとした汗が滲んだ。 無論ザフィーラにも良心はあるし、先日免許を取得する際に受けた教育ではっきりとコレが良くない事だと理解していた。 ザフィーラは…自分の目で確かめず傍で命令を下すだけのシグナムに尋ねた。 『…シ、シグナム。あ、RXは、どうなった? 今思いっきり轢いてしまったが』 『大丈夫だ。彼ならもう立ち上がっている』 微塵も心配していないシグナムの口調に励まされ、バックを確認して見ると確かにRXは立ち上がっていた。 膝が震えているように見えるという点を除けば、五体満足だし問題はない。 『…も、もう止めないか? 足にきてるように見えるんだが?』 『今度は連続で行くぞ。彼が振り向く前にもう一回やるんだ』 『それはちょっと『行け』 ザフィーラは言われるままにRXの背後から追突した。 やはりパワーだけで止めるのは不可能なようで、RXはどのように力を流すか、どうやって反撃を行うかを真剣に考えているところらしい。 新人はおろか、新人のモニターしていたなのはもドン引きだったという特訓風景と報告をしにきた二人の様子を思い出したはやての顔には自然と苦笑いが浮かんでいた。 「……ザフィーラが落ち込むさかい、やりすぎて体を壊さんといてや」 「ああ!」 はっきりとした返事から、RXの気合が伝わってくる。 それは戦いの場にあっては安心させられるのだろうが、今この場においてははやての頭にシュールな未来予想図を描かせるスイッチのようだった。 RXとシグナムの生真面目さが混ざり合い、それをスカリエッティの悪戯心が隠し味となってはやての前に苦いものを作って持ってくるのだ。 背後で苦い顔をしているはやてには気付かず光太郎は部屋を後にした。 RXが光太郎である事は隠すことにしているためRXの姿のまま光太郎は部屋を目指した。 人の足音を聞き分け、人気のない場所を通って光太郎は自分の部屋にたどり着く。 丁度隣の部屋が開き、新人のエリオと言う名の少年がRXを見て目を見開いていた。 「こんばんわ」 「こ、こんばんわ」 素直な目をしているが、少年らしからぬ影も微かに見えた。 フェイトが保護者をしており、人造魔導師ということは光太郎も聞かされていた。 「あの、本当にマスクド・ライダーですか?」 「ああ。これから風呂かい?」 光太郎は少し屈んで言う。エリオの腕には着替えの用意やタオルが抱えられていた。 RXの時は直立したままでも把握できるが、それではぶっきらぼうすぎる。 「は、はい。部屋にはシャワーしかないので…」 はじめてみる怪人の姿に怯えを表情に出さないこと、それに目を逸らさないのは好感が持てた。 遠目に見る分には特徴的な外見を気に入ってくれる者は多いが、近づくとその生々しい生物っぽさに怯える子供も多い。 六課の宿舎は隊長クラスがどうなっているかは光太郎は知らなかったが、隊員の部屋にはシャワーしかない。 「少し待ってくれないか?」 「え?」 「俺も、今行こうと思っていたんだ」 「は、はい…!」 タオルやらを抱えた飛蝗怪人をエリオは好奇心たっぷりの目でちらちら見上げてくる。 複眼の視野はエリオも十分範囲内にいるので多少気にはなったが、目くじらを立てるほどのことではないとRXはエリオのしたいようにさせておくことにした。 今度は通路を選ぶ、というわけにはいかず最短のルートを選んでいく。 そうなると…いつのまにか他の新人三人ティアナ、スバル、キャロの三名も合流して四人で何かしら含みのある視線を向けてくる。 彼等には、RXが光太郎であるということがばれたとしても、光太郎自身には特に害はない。 もしばれてしまった時は、素直に教えようと光太郎は考えていた。逆に言うとそれまではレジアスやはやて達の顔を立ててRXとしてしか彼等の前には姿を出さないつもりだということだったが。 三人とも年端の行かぬ少女でキャロはエリオと同じ年頃、スバルとティアナはそれよりは何歳か年上で地球で言えば高校生位に見える。 この世界では既に働き危険な任務に付くのも当然のことなのだろうが…スカリエッティのところを飛び出す事になる直前、風呂の中でスカリエッティと話したことを思い出す。 『私は彼女らの力を借りなければならない現状や、頻繁にこんな状況に陥る現場を嘆くスポンサーからの依頼を受けて戦闘機人計画に協力しているのさ。 ウーノ達の力は、慢性的な人員不足に陥っている管理局には必要な力というわけだ』 そのスポンサーがレジアスだったというのは意外だったが、今は…どこかで納得もしていた。 そうする必要があったからだが、何よりもそれは光太郎が出会ったクロノ達の人柄のお陰だった。 RX以外が靴音を響かせ、廊下を歩いていくなかスバルが口を開いた。 「あの、マスクド・ライダー!」 「RXでいいさ」 「はい! ありがとうございました!」 「え?」 突然礼を言われて足を止めたRXにスバルは落胆した様子で説明する。 「お、憶えてないですか? 空港で災害があった時に」 「憶えてる…だが、あれは」 説明を遮ったRXの目には一転して顔を輝かせるスバルの隣で、ティアナが非難がましい目を向けてくる。 光太郎にとってあの事件は、ウーノ達の攻撃に周りを巻き込んでしまった最悪の事件であり、ウーノとの暮らしを経てもそれは光太郎の中にしこりとして残り続けていた。 助けられた者達から礼を言われるのは…正直な所心苦しい。 以前、それでも変らないと言って礼を言ってくれたのはスバルの父ゲンヤであり、光太郎にとってはスバル達にこそ礼を言いたい心境にだったが、それは許されないようだった。 「もう君のお父さんから礼を言ってもらっている…君が気にする必要はない」 「そ、そうですけど、こうしてお会いできたんですからちゃんと言っておこうって、ギン姉も今でもとっても感謝してるんですよ!」 「そうか…!」 そこからスバルは家族の話やこれまでどうしてきたか…特に、彼女の姉であるギンガが父親と同じ部隊に配属され、何度かRXが現れた現場にいて共に事件を解決した話を誇らしげに語っていた。 だがもう少しで浴場に着くというところで、RXの耳に一報が入った。 ウーノの協力がなくなり、情報を迅速に得られなくなったRXの為にレジアスが手を打って、人の耳には聞こえない音を何度か送って合図を送ってくれることになっている。 また足を止めたRXに4人が注目している。 「すまない。風呂はまた今度のようだ」 「まさか、どこかで犯罪が起こったんですか?」 「ああ」 逸早く気付いたティアナに返事を返し、光太郎はタオルなどを浴場に置いてくれるようエリオにお願いする。 快く返事を返したエリオの髪をくしゃっと撫ぜてRXは廊下を破壊しない程度の速度で走りだした。 「あ、光太郎さん。今ちょっと…」 「後にしてくれ。犯罪が発生した」 廊下から出てきたフェイトに短く返し、RXはベルトから赤い光を放つ。 光が収束し、バイオライダーに変身した光太郎は壁を通過して外へと飛び出していった。 声をかけた状態からしょんぼりするフェイトと、フェイトの声を聞き眉を顰めるティアナを残して。 光太郎と自然にフェイトが口にしたのを聞いたティアナは、RXの正体をなぜフェイトが知っているかを考えて黙っている事にした。 幸い他の3人は然程気にしていない様子で、相棒であるスバルの恩人が秘密にしている事をわざわざ嗅ぎ回るほどティアナの趣味は悪くない。 外へ飛び出したバイオライダーには今手元に移動手段はない。 アクロバッターはライドロンを盗まれた一件以来、まだ地球でヴィヴィオの玩具になったままだ。 だがバイオライダーはゲル化し、バイクに乗っている時よりも早く、一瞬で現場に移動することができる。 ゲル化したまま人質に取られた人達の中へ突入し、人質全員を同化させて救出する現れてから安全圏に人質を連れ出すまでがその一瞬の内に行われた。 人数が少ないからこそ出来た芸当だが、そんなことを知る由のない犯罪者は開いた口の塞がらない。 バイオライダーは猛る気持ちのままに腕を振るい、ポーズを決めた。 「俺は怒りの王子、仮面ライダーBLACK、RX!! バイオライダッ!!」 時折組まれているTVの特番では、処刑用BGMと呼ばれる曲がかかる合図となる名乗りを挙げ、バイオライダーは人質を取った犯罪者の群れを制圧しにかかった。 前へ 目次へ 次へ
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カートリッジとして積み込んだロストロギア『ジュエルシード』の莫大なエネルギーによって限界を超えて加速し続ける偽ライドロン。 それを全身で止めようとするロボライダーの足を硬い顎で噛みながら、空気を入れ続けられる風船のように内側から光が溢れていく。 ロボライダーには何の表情も浮かぶ事はなく、血で出来た涙が一筋頬を伝う仮面は光に照らされて偽ライドロンに押し込まれ、路面を破壊しながら進む街並みを複眼に映していた。 だがロボット然とした体の内側は激情に猛り狂っていた。 最後には爆発すると言うスカリエッティの言葉をロボライダーは疑ってはいなかった。 嘘をつく理由はなく、何よりも今受け止めている偽ライドロンの限界が近づいている事が、硬い表皮越しに感じられる。 仲間であるライドロンと同じ形をした車を使い捨ての爆弾に仕立て上げたこと。 そんなものをこの街で爆破させようとしていること。 それにウーノが加担していること、 怒りか悲しみか、憎悪か様々な感情が入り乱れ彼の目の前で今にも破裂しそうに光る車と同じように、光太郎の体から溢れそうな程渦巻いていた。 そこへ徐々にフェイトが近づこうとしていた。 「ロボライダー! もう少し堪えてください!!」 複眼に写る景色に剣を振うフェイトの姿が強く映し出されていた。 ロボライダーが見慣れたバトルジャケットではない。 より軽装になり手足を晒した真ソニックと名付けた姿だった。 ロボライダーが押さえ込んでいるとはいえ加速を続ける偽ライドロンに追いつくには、普段のフォームでは無理か時間がかかりすぎると判断したのだろう。 瞬きするほどの間に対向車を吹き飛ばして進む偽ライドロンへと、フェイトは追いつこうとしていた。 迫るフェイトの周囲に金色の光が流れ、雷の槍が生み出されたかと思うと偽ライドロンの4つのタイヤへと降り注ぐ。 恐らくは全ての車輪を破壊し動きを止めようという意図を持って、撃ち出された魔法。 だがそれは、車を包む光に触れた瞬間に消滅した。 ロボライダーとフェイトの間に動揺が走る。 AMF、とフェイトの唇が動いた。 フェイトが携えた剣型のバルディッシュは『ジャマーフィールド』と言う。 魔力結合・魔力効果発生を無効にするフィールド系の上位魔法でフィールド内では攻撃魔法はもちろん、飛行や防御、機動や移動に関する魔法も妨害することが出来る。 スカリエッティの作り出した兵器、ガジェットドローンが標準で装備している魔法は…当然偽ライドロンにも組み込まれていた。 ジュエルシードの莫大なエネルギーを使って形成されたAMFがどれ程の濃度を持っているかは不明だったが、フェイトはそんなことを考える必要のない手段へと攻撃を切り替えていた。 天候操作と遠隔攻撃魔法。二つを同時に行い自然現象として発生させた雷が車に降り注ぐ。 だがそれも車をショートさせるには至らず、周囲を停電させるだけに終わる。 一瞬動揺を見せたロボライダーの体が、T字路の交差点に差し掛かりそこで店を構えていたパブをぶち抜いた。 パブを貫いて再び道路に出たロボライダーの横にフェイトが降りてくる。 次の手を打つ為に相談をしようとしたのだろうが、ある程度の距離まで近づいた瞬間その体は魔法の制御を離れてバランスを崩した。 「えっ?」 驚くフェイトの姿を複眼はしっかりと視界の中に入れている。 AMFの威力によってフェイトの体を、ロボライダーは車を抑えていた片手を離して掴んだ。 引き寄せられたフェイトの肌に硬い外皮の冷たさが伝わり、フェイトは少し赤くなった。 「すみませんロボライダー! まさかココまで強力とは…」 「フェイト! コレはジュエルシードを積んでいてもうすぐ爆発する…何か手を知らないか!?」 フェイトが息を呑んだ。 過去に深く関わったジュエルシードが今どうなっているか知っているフェイトにとってはありえないことだった。 現在ジュエルシードは全て管理局遺失物管理部で保管しているはずなのだ。 だが、ロボライダーが嘘を言っているとも思えなかった。 どうして車に組み込まれているのか考えるのを後回しにし、フェイトはロボライダーに言う。 「ジュエルシードを露出させることさえ出来れば…」 今こうしている間も強力なAMFの影響から脱しようとしているせいで不安は残るが、フェイトは決意を込めて言う。 「私が責任を持って封印します!」 「分かった。俺に任せろ!」 そう言うと、ロボライダーはフェイトの体を空中に投げ捨てた。 車は走り去り、AMFの効果範囲から抜け出たフェイトは再び高速で空を飛び、彼等を追いかけていった。 押えていた手を一つに減らしたロボライダーの腕が、振り上げられ拳が強く握り締められる。 その背後には、時空管理局のミッドチルダ地上本部が見えていた。 震える程握り締められた拳が偽ライドロンに振り下ろされる。 魔法など一切関係ない豪腕が車体を貫き、力任せに装甲が剥がされていく。 車内に溢れていたエネルギーが漏れ出して周囲を破壊していくが、ロボライダーはそれにも全く傷を負うことはなかった。 衝突で受けるダメージも降り注ぐ日の光を吸収し、深いダメージには至っていない。 ロボライダー、光太郎は…偽ライドロンの何処にジュエルシードが埋め込まれているのかよく分かっていた。 光太郎が設計図を受け取り、完成させた車のほぼ正確なコピーなのだから。 …スカリエッティが言っていた再現できなかった部分を開くと光り輝く宝石が嵌められた見慣れない機械が積まれていた。 そこにフェイトが幼い頃に使った魔法を放つ。 AMFを貫く為に一工夫施された魔法がジュエルシードに衝突し、光を失う。 それを見て、ロボライダーは嫌な予感がした。 ゴルゴムやクライシスと戦っていた時の馴染んだ感覚…改造人間の超感覚が僅かな観察から回答を生み出し、光太郎に嫌な予感という形となるそれ。 ジュエルシードの傍に接続されている小さな機械が、音もなく動き出していた。 「スカリエッティの仕業かッ…!!」 ロボライダーがそう叫んだ瞬間、ジュエルシードは内包する全エネルギーを無差別解放する。 光太郎がライドロンの構造から偽ライドロンに埋め込まれたジュエルシードの位置を割り出したように。 スカリエッティは彼等がジュエルシードを見つけた場合どうするのか、数通りの対策を用意していたのだ。 埋め込まれた装置が動作し、小規模の次元震が発生しようとする。 ロボライダーは生き残るだろう。 だが、街や今封印を施したフェイトは無事ではすまない。 直感的にそうロボライダーが悟った時… その時………不思議な事が起こった。 * 翌日、薄暗いトレーニングルームでレジアスはデッドリフトをしながら友人を待っていた。 彼が購読している新聞に広告として載せたのだが、果たして気付いてもらえたかどうか…既に日は落ちて職員も殆ど残っていない。 目に入るのは器具以外では新聞一つだけ。大きく掲載されているのは暴走する車を止めようとするライダーと執務官の写真だった。 その隅に小さく二人の女仮面ライダーが戦ったという記事と、更に小さく一部が破壊された施設の前で膝を突く狸娘の写真が小さく掲載されている。 「ザマァwww…ゴホンッ、いい様だが……由々しき事態だな」 ちなみに見た目以上に過酷なこのトレーニングは腰を破壊しかねず素人が一人でやることはお勧めしない。 レジアスも若き頃には友と競い合うように回数だけに拘っていたが、老いた今完璧なフォームを身に着けた彼の動きはネットで公開され後輩達の手本とされている。 数ある中で(筋肉が)美しきゼストと(筋肉が)燻し銀のレジアスの動画は目的を同じとする動画においては最も視聴されているらしい。 予定していた回数を行ったレジアスの元に、黒い怪人が姿を見せる。 レジアスがトレーニングを終えるのを待っていたようなタイミングだった。 「呼び出してスマンな」 「構わん。だが、余り時間を取る事は出来ない」 「BLACK。お前の考えていることは分かる。スカリエッティを探しに行こうというのだろう?」 「ああ…お前にもバレていたのか?」 「当然だ。お前がミナミコウタロウだということ位知っておる。アパートの大家には保障も考えよう」 ミナミコウタロウの同居人であったウーノとセッテが行方知れずとなり、その直前にBLACKの相棒である女ライダーと彼女と良く似た女ライダーが戦っている姿が目撃されている。 その際に、ミナミコウタロウの住んでいたアパートは破壊されていた。 暴走車の一件も、車が消滅した後仮面ライダーがすぐに立ち去らず、少しの間とはいえその場に留まっていたらしいという情報から考えると、なんらかの因縁があるのだろうとレジアスは考えていた。 RXはすぐに言葉を返さなかったが、レジアスにはRXがこの街を離れて犯人を捜しに行こうとしているのが分かった。 彼が現れて犯罪者をレジアスに引き渡すようになってから何年か経っている。 会っている時間は短かったが、RXが今どう動きたいかを察するには十分な時間だった。 「敢えて言おう。仮面ライダー、お前はココに残れ」 「それは出来ない。奴の狙いは俺だ。また今回のようなことが起これば、次こそ誰かが命を落とす」 RXの返事に迷いはなかった。 声だけでなく、胸を張って立つ姿は強い意志によって、普段の二周りも三周りも大きく見えた。 そんなRXは無敵の、それこそ教会でうたわれる古代ベルカの王が現世に姿を見せたようにさえ感じられた。 それゆえにレジアスは不安を覚えた。誰よりも信頼していた友がレジアスの忠告を無視してスカリエッティの基地に突入して死亡してしまった。 友がスカリエッティの基地に突入する直前、上から命令されたレジアスは友に止めるよう命令し、別の命令を下した。 管理局の暗部と犯罪者が既に彼等の行動を察知していることなど分かったはずだ。 だが友は相手を侮っていた。 たかが次の命令を待たずに突入するだけでどうにかなる程度の相手だと考えてか、突入を決行し死んでしまったのだ。 その経験がレジアスに不要な心配をさせていた。 「BLACK。ワシがスカリエッティのスポンサーの一人だ」 「なん…だって」 波が引くように、周囲から音が消えた。 虫の音だけではない。施設の全ての機械が動きを止めていた。 どんな理屈かレジアスに理解する事は出来なかったが、目の前で爛々と光る赤い目。額で光るセンサーらしきものの不吉な輝きが危険すぎることはわかった。 知らぬ間に震えだした体を叱咤し、口を動かす事が出来たのは過去の出来事で出来た古傷のお陰だった。 今なら監視もないだろうと、レジアスは声高に叫んだ。 「戦力が、どれだけ不足しているかは知っておるだろう!! 暗部と手を組んででも、戦力を整えていくことが俺が地上の為に出来る事だった!!」 RXが肩を微かに動かしただけで、レジアスの体は震えたが口はよく動くようになった。 「戦闘機人が人道に反していようと、俺にはミッドチルダの平和を守り、陸士も家族の下に返す義務を果たすには他の手はない!!」 「馬鹿なことを言うなッ、他の手はないというのか!?」 「あるものかッ!! 本局さえ戦力が足りんッ…陸に最低限必要な戦力を確保しようとするだけで反対されるほど足りん!!」 叫ぶレジアスに、少し冷静さを取り戻したのかRXからの圧力が減り、レジアスはようやく自分の呼吸が荒くなっている事に気付いた。 「お前は形だけ六課に所属しろ。それで今は黙らせる。スカリエッティがお前を狙っていることは知っている…奴が動く瞬間を狙え」 「六課に…?」 疑問の声を発するRXに、レジアスは頷いた。 RXが暴走車を消した一件以来、教会が突然RXに対し警戒する姿勢を見せ始めていた。 これまでマスクド・ライダーに対する教会の態度は好意的だった。 レアスキルを有難がり、よく当たる占い程度の精度しかない予言を信じて曰くつきの連中を集め、新部隊を設立する為に暗躍する連中がどういった考えで態度を変えたのかはレジアスにもまだ分かっていなかった。 今スカリエッティへ遮二無二突撃させたくないが、レジアスは教会の思惑に乗るのも気に入らないと考えていた。 レジアスのレアスキル嫌いを彼等は見下し、レジアスは個人の技能任せやよく当たる占いの結果などに莫大な予算を注ぎ込み、規則の裏をかいて人材を集中する彼等を憎む。 広大な空を守り抜くには人材が不足している為最も効果のある手段を選び、それが結果としてレアスキルを信用する傾向となって現れる教会と管理局本局。 レアスキルなど持たない者しか陸に残らない為、対症療法的な計画ばかりで対処するやり方に納得することは出来ない地上本部の溝は深かった。 数年前から『地上本部が倒れるのを先駆けに管理局が崩れ落ちる』という予言を防ぐ為教会は本局に働きかけ、もう直ぐ予言を阻止する為に六課という部隊を新たに設立、運用することを決定している。 その部隊には、RXと行動を共にしていたという連中が所属する予定になっていた。 レジアスとしてはそこにRXを入れ、悪く言えば教会の重鎮に伝手のある彼等の情に付け込んで教会と本局の動きを止めると同時にRXにこれまで通りの働きをしてもらいたいのだった。 逆にレジアスも六課を叩く事が出来なくなるが… 「…この街にいる犯罪者の相手を陸士達が出来るようにはなっていないのか」 「…その通りだ。お前には、感謝している…だが、俺達のヒーローになった責任は果たしてもらうぞ!!」 RXがポツリと零した言葉にレジアスは深く頷いた。 マスクド・ライダーに対抗するように、ミッドチルダの犯罪者達は強力になった。 それでも治安が良くなっているのは、ライダーという強力な助っ人がいるからだ。 RX目当てに集まった犯罪者達が、RXがいなくなると同時にいなくなるかと言えばそんな事は無いだろう。 それに対応できる程の人材は、今の地上本部には存在していない。 ライダー二人の戦力が少なく見積もってもSランク魔導師と同等という地上には有り得ない戦力を本局から引っ張ってくるのは容易ではないし、その間に出る被害は地上本部が負担するには重すぎる。 「上層部はライダーを捕らえるよう命じ、現場はそれに従わずお前に協力する…この構図を餌に陸の人員を増やしておる。 お前の協力で浮いた資金で装備を整え、対策を練らせる。市民達も、現場の人間には協力的だ。だが、まだ足りん…後10年、最低でも5年は必要だ」 RXはレジアスの心情をある程度理解しているのか、ゆっくりと頷いた。 「……わかった。俺に事件の情報が入るように手を回しておいてくれ。伝手がなくなってしまったからな」 「任せておけ…所詮、俺に出来るのはそこまでだ」 二人は頷きあい、レジアスは満足した様子でRXの消えた辺りを暫く眺めた後、シャワーを浴びて帰っていった。 「…長官、お疲れ様でした」 「君か。分かっているだろうが、今ココで見たものは他言無用だ」 「分かっております…その代わり、今度食事でも如何でしょうか?」 「……その話は断ったはずだ。君の気持ちは嬉しいが、年齢もある」 「細かい事はいいじゃありませんか。オーリスも説得して見せますわ」 外で待機していた秘書と只ならぬ様子で去っていくレジアスを見送って、RXも月明かりに生まれる影に溶け込むようにして消える。 脳裏に浮かぶのは戦闘跡の残るアパートでも、偽ライドロンによって破壊された六課宿舎の前で膝をつくはやての姿でもなかった。 ジュエルシードのエネルギーによって小規模の次元震が発生する一瞬の時間。不思議な事が起きた。 あの瞬間、光太郎は咄嗟にキングストーンエネルギーをベルトから照射するキングストーンフラッシュを行った。 レリックの際は暴走を止める手にはなりえないと思ったが、フェイトによって封印されていたことがうまく働いているのか、効力があるように感じたからだ。 光太郎の直感通り、幻術を破ったり洗脳を解くなど様々な効果を持つそれによってジュエルシードの活動は停止した……だがそれと同時に道路や偽ライドロンの一部が消失していることも光太郎は見逃さなかった。 キングストーンが二つに増えたせいで強化されたというような印象ではなかった。 別の力が、RXの体から生み出され制御仕切れずに放たれてしまっていた。 アレはもっと、より純粋に破壊する力だった。 乱れきった感情に呼応したキングストーンの不思議な力が、新たに創世王としての能力を目覚めさせたのかもしれない。 今ならば、その力だけを放つ事も出来るという奇妙な確信が、光太郎にはあった。 もし放つなら、ベルトからよりも頭部の、額にあるセンサーから放つ方が良いということも分かる。 そうすれば、ジュエルシードだけを消し去る事も可能だろう。 つまり今後再びジュエルシードやレリックによる大規模破壊を仕掛けられても防ぐことが出来るようになったのだ。 それでもレジアスに説得されるまでミッドチルダを出る気でいたのは、今回ウーノとセッテが去ってしまったことが大きく関係していた。 争った形跡があったので、連れ去られたのか付いていったのかはわからない。 ただ二人が去った事がゴルゴムとクライシス帝国。二度の戦いで大きな犠牲を払ったことを強く思い出させたのだった。 同居していた二人が消えたこと、偽物とはいえ仲間であるライドロンと同じ姿をした物をこの手で破壊したことが光太郎の心を強く揺さぶり、悪い方向へと傾けていた。 光太郎の心は、新たな能力を身に着けたことを喜ぶよりも、助けられなかった命に対する後悔で沈み込もうとしていた。 最初のレリックの事件を思い出し、 あの時に今ほど直感が働いていれば… もっと強い感情の動きがあり、この力を身に着けていれば… 空港での被害はもっと小さなものに抑えられていたはずだと考えてしまっていた。 その一方で理性では詮無い事だとはわかっている。 弱気になっているだけでなく、故郷の先輩達に比べて自分は余りにも奇跡頼りになってしまっている…そう考えていた。 ジュエルシードがエネルギーを開放した瞬間に、この力を使いこなす事が出来なかったのも自分の未熟さ故のことだ。 そうした気持ちを零す相手は今傍にはいない。 クロノ達は能力について話し、策を練り、敵を追い詰める同志ではあるかもしれないが、先輩ライダーのように悩みを打ち明けるような相手ではない。 フェイトらとは、特にフェイトとは図らずも付き合うことにはなっていたが、年齢から無意識の内に光太郎の中には保護者を気取る気持ちが生まれ、足かせとなって弱音を吐く事を躊躇わせていた。 あるいははやてとの主従関係さえなければ、シグナムには悩みを零してしまっていたかもしれないが。 数年ぶりに一人、戻る家もなく過ごす夜は光太郎の悩みを深くさせ、光太郎の心を鋭く尖らせようとしていた。 BLACKとして戦った時に持っていた強さとは違う。 RXとなりクライシスと戦っていた時の強さとも違う…先輩ライダー達のような強さが、光太郎の手には今はまだなかった。 一方、その現象を準備万端で観測していたスカリエッティは、今にも不思議な踊りでも踊りだしそうな勢いで喜んでいた。 壁に設置された巨大なモニターでは、ロボライダーが偽ライドロンを消し去る瞬間が何度も繰り返し映され、その隣に得られた値が表示されている。 「ドクター、何か分かったのですか?」 スカリエッティの要請により、再び彼の秘書に戻ったウーノが怪しい動きをしているスカリエッティに尋ねた。 「君達の使っている力とも魔力とも違うということはわかったよ。THEとでも名付けよう」 「?」 「超破壊エネルギー。略してT・H・E」 得意げに言うスカリエッティにウーノはうんざりしたような顔で言う。 「相変わらずセンスがありませんわね」 戻ってきたばかりの娘の言葉を、スカリエッティは聞こえないふりをしてやり過ごす。 「セッテの再改造の準備はどうだね?」 何も言わずにロボライダーの映像は消えて、姉と共に帰還したセッテの姿が映し出された。 一瞥したスカリエッティは満足げに頷く。 「ドクター」 「なんだね?」 「どうして教会が光…ライダーを危険視し始めたのでしょうか?」 「古い結晶と無限の欲望が集い交わる地、死せる王の下、聖地よりかの翼が蘇る。 死者が踊り、なかつ大地の法の塔は虚しく焼け落ち、それを先駆けに数多の海を守る方の船も砕け落ちる…」 突然管理局から横流しされている情報の一つである予言を口にしたスカリエッティにウーノは首を傾げた。 予言の内容についてはウーノも目を通していた。 「ライダーが予言成就に関係があると考えているのさ。彼等ならそう考えるのも仕方ないだがね」 「マスクド・ライダーはヒーロー扱いを受けていると思っていましたわ。何を根拠にそう考えたのですか?」 何の証拠もなしに光太郎を警戒する者達を嘲笑するウーノを、スカリエッティは笑みを浮かべたまま生暖かい目で見つめていた。 素性の知れない飛蝗怪人を警戒するのは当然のことで、むしろ今これほど一般に受け入れられていることこそ不思議だとスカリエッティは思っていた。 どうしてウーノが贔屓目で見ているのか想像したスカリエッティが生暖かい目をしたのは仕方がないことだった。 「教会に伝わる逸話に、彼等の奉じる聖王陛下が異世界の魔王に負かされるという話があるのさ」 「逸話…?」 「そう。旧暦462年の大規模次元震後に突然出来たおとぎ話の中に、侵略しようとした魔王を命と引き換えに退けるという話があってね。その魔王は、緋色のマントを羽織った飛蝗の姿で描かれ、稲妻を持って敵を打ち滅ぼす」 旧暦462年は大規模次元震により古代ベルカを含む複数の世界が崩壊した。 一説では聖王の乗る戦船が原因だったとされているが…スカリエッティが語った今の話はウーノも初耳だった。 「他には全ての世界を我が物としようとした聖王陛下が、クク。飛蝗の群れに食われてしまうという話もあったかな? 全てを喰らい尽くす蝗の群れが、『聖王の欲望』を表していて、欲望のままに振舞う者は自らの欲望によって滅びるのだとということを意味しているらしいがね。原型を調べていくと、聖王を喰らったのは飛蝗なのさ」 そう言って、画面上にその逸話が描かれた文献を表示させて大声で笑い始めるスカリエッティ。 文献を背景に笑う創造主を視界に納めながら、ウーノはたかがそんな話だけで光太郎と古代ベルカの間に奇妙な因縁を感じた自分に苛立ちを覚えた。 「馬鹿馬鹿しい…ヴィヴィオ・ハラオウンやシグナムと知り合ったのは偶然よ」 小さな声で呟かれた内容を高笑いしながらもスカリエッティは聞き逃さなかった。 笑うのを止めて、素の表情に戻ったスカリエッティが言う。 「勿論彼等が信じるようになったのはドゥーエのお陰だがね」 前へ 目次へ 次へ
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魔法少女リリカルなのは The Elder Scrolls クロス元:オブリビオン 最終更新:08/05/13 第一話 第二話 第三話 拍手感想 TOPページへ このページの先頭へ
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機動六課に光太郎が身を置く事になってから、光太郎は毎日特訓と、陸からの呼び出しでミッドチルダで起こった事件の解決に力を注いでいる。 スカリエッティ達は動きを見せておらず、協力関係を約束した陸のボスレジアスからの接触もない。 レジアスの承諾を得て、内部捜査を進めるクロノ達に紹介もしたがクロノ達の捜査にも相変わらず進展がないようだ。 クロノ達にも自分の仕事があり、それには管理世界の命運に関わることも多いのだから仕方がないことではあったが。 光太郎が特訓と陸の手助けに力を注ぐ事が出来るのは、機動六課内で光太郎の仕事がないお陰だ。 戦力を投入する必要がある状況はまだ起きておらず、光太郎以外の隊員も皆訓練漬けの毎日を送っているのだ。 といっても、フェイトの話しによればまだ新人4名の魔法の杖、デバイスも調整中という話で単に実戦投入できる段階にないと判断されているのかもしれない。 そんなわけで、フェイトが別件で忙しく外へ出ている為、フェイトが担当するはずの二名も合わせた新人4名がなのはのしごきに必死になっている傍で光太郎は今日も特訓をしている。 特訓に付き合うのはシグナムと、彼女と同じく六課隊長となったはやての守護騎士の一人、ザフィーラだ。 これまでザフィーラとは余り付き合いはなかったのだが、この特訓でかなり気安い仲になろうとしている。 それがザフィーラの我慢強さのお陰であることに、光太郎は気付いていなかったが… 守護騎士ザフィーラは、「盾の守護獣」の二つ名を持つ獣人の男性で、獣モードと人間モードの2形態を使い分けている。 性格は寡黙で、ここ何年かは特定の役職に着かず、もしもの時の為にはやてかシャマルのボディーガードをしていた。 機動六課でもそれは変らず、特定の役職に着かず、六課隊舎の留守役や隊員達の護衛を最優先する…はずだった。 大事な事なのでもう一度言うが、もしもの時の為に特定の役職は持たないはずだった。 「クッ…」 苛立ちを零しながらザフィーラは片手でハンドルを回す。太い指が手馴れた動きで細かくギアチェンジを行い、車は180度の回転を済ませる。 一歩間違えば横転するだろうが、出所不明とされているこの車の性能はトップスピードからの急停車を難なくこなすだけの性能を持っている。 タイヤの跡を残しながら、再びザフィーラはアクセルを踏み込んだ。 「ウオオオッ!!」 立ち上がったばかりの黒い人影に向かって全速力で突っ込む短い時間、音の壁を超えて無音の世界に突入するまではほんの一瞬。 訓練とはいえ、味方を轢き続ける為に俺は人型になっているんじゃあない…!とばかりに苦い顔で敵を睨みつけるザフィーラに対し、助手席のシグナムは体を座席に固定して涼しげな顔をしていた。 目の前の男はそれに反応して速度を上げ、真っ赤な複眼を輝かせながらザフィーラへと突進を開始する。 瞬間的には、ザフィーラが乗り込んだ車さえ越える加速で、怪人は今出せる最高の速度まで自分の体を持っていく。 信じられないことだが、何度も轢かれる間に飛蝗男はその特徴をより高めて立ち上がっていた。 交差する直前、ザフィーラの乗る車は飛蝗男の脚部を、あるいは胴体を掴み、砕く強靭な顎を自動的に剥き出した。 飢えた肉食獣の牙のように、蜜を狙って争う昆虫の角のようにそれは存外にスマートな敵のパーツを挟み込もうとする。 飛蝗男はそれを難なくかわし、ボンネットの上に着地した。 逆行で陰になった仮面。見上げると爛々と光る複眼とザフィーラの視線が一瞬交差する。 幾人ものザフィーラとシグナムを写した複眼、表情の変らない仮面に躊躇いが浮かんだようにシグナムは感じた。 飛蝗男…仲間となったRXが次の動きに移るまでの間が、そう感じさせたのだろう。 RXは車体の端を掴み、強引に車を持ちあげる。 特訓だからと様々な方法を試すのはいいが、無理やりにも程がある。助手席に座るシグナムが苦笑を零した。 エンジンを貫けば良いだろうに、ひっくり返そうという算段だと悟ったザフィーラが助手席に座るシグナムの名を叫んだ。 シグナム自身判断していたことなのだろう、ひっくり変えされる前に薄い魔方陣が現れてひっくり返った車体を受け止めた。 柔らかく車体を受け止めた魔方陣が車体を押し返す。車体を転がし飛び退いていたRXへ向かうため、再びザフィーラはハンドルを切る。 魔法によって緩和された慣性を押さえ込みながら、シグナムが口を開いた。 「流石に光太郎も、覚悟を決めたようだな」 「ああ…容赦がなくなってきたようだ」 一言二言言葉を交わす間に、再びRXと接触する瞬間が迫る。 元々この訓練に使っている場が狭すぎるのだ。再び衝突する直前、RXは再び地を蹴った。 踏み砕かれた路面が砕け、車体に接触しないギリギリの高さを飛ぶRXが身を捩る。握り締められた拳は、正確に車に取り付けられた新しいエンジンを貫いていた。 それを目視で確認する前に、ザフィーラとシグナムは車から飛び降りていた。 遅れて車が爆発するのをRXは無言で見つめていた。 その爆発を、同じフィールド内の別の場所で休憩をしていた新人達も動きを止めて見つめていた。 日に日に容赦なく派手になっていく彼等の訓練に感心したスバルが目を輝かせて教官であるなのはを見上げる。 「なのはさんも普段はああいう訓練をされているんですか?」 教導官であるなのはは、教え子からの質問に驚いたような顔をして、すぐに我に返って答える。 「にゃ? う、う~ん…車に轢かれたりはしないかなぁ」 「え、そうなんですか?」 不思議そうな顔をするキャロ。 キャロのパートナーを務める少年エリオはキャロと同じようなイメージを持っていたのか驚いたような顔をしていた。 自分もあれと同じように扱われているのだろうかと複雑な気持ちになったなのはを見てヴィータが笑う。 その間に、エリオがそれもそうかと直ぐに立ち直り、フォローを入れた。 「キャロ、なのはさんは砲撃魔道師だからあんな訓練はしないんだよ」 「ヴィータ副隊長っ、じゃあ私もいつかはあんな訓練が出来るようになるんですか!?」 「しねーよ馬鹿!!」 あはは、と笑いながらなのははこっそり嘆息した。 実は自分の教導が地味で成果が見えにくいことを気にするなのはには、RXの特訓を見て新人達が妙な勘違いをしはじめているらしいのは小さな悩みになっていた。 「やっぱりもう少し派手にやった方がいいのかなぁ……」 あるいは見えないところでやれと言うべきなのかもしれない。 * なのは達への配慮は完全に頭から抜け落ちた三人はスクラップになった偽ライドロンの元に集まっていた。 偽ライドロンが壊れてしまったのは残念だったが、こうなるのは承知の上で行っていた三名には動じた様子はない。 目的を達成していない状態で壊れてしまったのなら違っただろうが、今の攻防で偽ライドロンを使用した特訓の目的は半分以上は達成していた。 はやてにも何かの参考にと地球の漫画版仮面ライダーなどを提供してもらっていたし、あわよくば新しい技の一つも編み出したいという欲はあった。 だが本当の目的は、ここ数年ウーノ達と平穏に暮らしたことによって緩んだRXの精神的な錆を落とすこと。 偽ライドロンを見た瞬間はまだしも、爆発寸前にならなければ手を下せなかった性根を叩きなおす為に、敢えてザフィーラやシグナムに運転してもらい攻防を繰り返したのだ。 そんな目的さえなければ遠隔操作するだけでも別に構わなかったし、こんな形の特訓を行う必要もない。 避けるなら現状でも容易いし、パワーが足りないならロボライダーの姿で筋肉トレーニングを行えばいい。 スカリエッティがいつかRXを完全に模倣したライダーを生み出すのではないかという懸念はあったが、まだまだ先のことだろうと思われる。 能力的にはまだ特訓を行う必要はないのだ。 「直せるかな?」 「さあな。私もその辺りは門外漢だ」 頭を振るシグナムの横で、ザフィーラが偽ライドロンの傷ついたフレームを軽く叩いた。 お疲れと労らいを込めフレームに手を置くザフィーラは優しげな顔をしていた。 「後でシャーリーには連絡しておこう。数日中には返答が来るだろう」 「すまない」 「気にするな。私も愛着が沸いている」 シグナムがRXの肩を気安げに叩いた。 「その間は我々が相手をしよう…」 「ああ。頼むよ」 「任せてもらおう。そうと決まれば早速始めたいのだが…RX。ついでに剣を教わる気は無いか?」 言いながら、壊れた車から数歩離れてレヴァンティンを抜くシグナム。 「どうしたんだ?」 遠慮がちな言い方が彼女らしくないと感じ、尋ねるRX。 人に物を教えられるような人間じゃないと嘯くような人間だと知っているザフィーラは、純粋に剣を教えるというシグナムに驚いていた。 シグナムは特訓中に教えてもらった武器が気になっている、と答える。 「リボルケインだったか?」 「ああ」 彼女は特訓に際して打ち合わせをする間に、RXが銃だけでなくリボルケインという剣状の杖を所持していることを聞かされていた。 リボルケインは光を結晶化することで生成される。 打撃を加えるだけでなく、RXの身体能力あってのことだが敵の光線を受け止める事も可能なRXの必殺の武器だ。これを使いRXは幾多の敵を『爆破』してきた。 だが、そのことを聞かされた際に、シグナム達はRXがまだ完全にその武器をを使いこなしていないことに気付いた。 「試して見ないとわからんが、お前はリボルケインの性能を全て使いこなせていないと思う」 「なんだって…!?」 リボルケインは元々光を結晶化して作り出した武器。 稀には切断武器としてもRXは使用している通り、形状は自由に変化させることが出来る。 例えば、シグナムのレヴァンティンのように鞭のように使用する事も、敵に突き刺してから行っているようにエネルギーを集めて、発射することもできる万能武器のはずなのだ。 「お前の武器なら私の剣をそのまま使うことも出来るはずだ」 シグナムに遠慮がちな申し出をさせたのは、相手がRXだったからだ。 RXに聞いた話では、彼はロボライダーとなり必殺武器であるボルテック・シューターを撃つまで銃を持ったこともなかった。バイオライダーとなった際もそうらしい。 その事を踏まえて考えるなら、もしかしたら、RXは必要ならその場で必要な技術を身につけるの事が出来るのかもしれない。 もしそうなら、シグナムの申し出を受けても時間の無駄になってしまう可能性がある。 説明を終えたシグナムは、RXの答えを待った。 RXは直ぐに、シグナムと同じように車から数歩離れると、軽く足を開いてシグナムへと体を向けた。 おもむろにベルトのバックルへと左手を伸ばし、二つある宝玉の片方の手前で伸ばした手を握り締める。 すると瞬く間に宝玉から眩い白光が伸びた。光は見る間に線へと収束し、柄を格子造って収まっていく。 完全に光が収まった時には、RXの右手には光から生み出された柄が握られていた。 柄から更に光を伸ばしながら、RXは左手に現れた杖を右手に持ち替えて、軽やかに腕を振るう。 最後まで光を残していた先端が空中にRを描き、地面に落とされた。 「是非お願いする」 「そうか」 シグナムは剣を構える。 「私には思ったことを口にすることと相手をしてやるくらいしか出来ないがな」 「前にバイトをしていた時と同じってことかい?」 「いや。私の技を盗め」 始めようとする二人に、水を差すようなタイミングでザフィーラが言う。 「二人ともちょっといいか?」 「なんだ?」 「シャマルの護衛で出かける予定があってな。明日から数日は特訓には参加できない」 「そうか…」 この六課で少ない男性の友人に若干残念そうにRXが言う。 「ありがとうザフィーラ、お陰で特訓が捗った」 「気にするな。主はやての命令でもある。また戻ったら付き合おう」 邪魔してすまないと言って、スクラップの上に腰掛けるザフィーラを合図に二人は切り結ぶ。 RXは直ぐにシグナムの剣を真似てきた。 RXが素手だったりシグナムがRXに合わせ飛ぼうとしないという違いはあるが、既に二人は何度も戦っている。 シグナムの癖はほぼ見切られていた。逆にシグナムの方も、RXが見せる自分の技ならば容易に受ける事が出来る。 二人が巻き起こす風に飛ばされぬよう、ザフィーラは魔法を使う。 全身を使い竜巻を起こす事も出来るRXの剛力に押されながら、シグナムは鍔競るのを避け、どうにか打ち落とし、払っていく。 六課に入るに辺り、以前にも増して強いリミッターをかけられたシグナムの身体能力はRXに全ての点で劣っている。 力も早さもだ。だがシグナムは、時にその体を吹き飛ばしかねない強風を起こしながら振るわれる打撃を受け流していた。 RXは以前の訓練中にも見せられたその技術を取り込もうとしていた。 二人は距離を取り、シグナムの持つレヴァンティンが吼えた。 蛇剣と化して、シグナムの周囲に展開していくレヴァンティンを複眼に写しながら、RXの持つリボルケインのスティックが光を放つ。 うねりながら迫り来る刃を避けながら、RXのリボルケインが伸びて行く。 だがそこでRXは突然動きを止めた。 シグナムは直ぐに察して剣を引き戻す。 「事件か?」 「事件だ」 二人の戦いを見物していたザフィーラが嘆息する。 車を使用していた時も度々あったことだが、ミッドチルダで事件が起きるとRXが出動してしまう。 規模によっては向かわない事もあるとはいえ、時間を選ばず陸から呼び出しがかかってしまうのだ。特訓の最中、深夜や朝方。一番多いのは昼間だ。 魔導師ランクから言ってRXならば危険はないので、心配はしていない。 だがザフィーラ達が出動するわけではないとはいえ、特訓に付き合うザフィーラ達の方もいいところで止められてしまうのには困っていた。 「また行くのか」 「ああ」 リボルケインを仕舞い、地面を蹴ろうとRXは体を傾けた。 今回は距離が近く然程緊急でもないのかこのまま向かうつもりのようだ。 腿に力を込めて飛び立つ。その直前、RXの目の前に画面が開いた。 飛び出すのを止めたRXが、勢いを殺すために踏み込み…画面へ仮面を向けた。 開かれた画面には、いつもよりは控えめな笑みを浮かべたスカリエッティが映っていた。 RXはもうそれに驚いたりはせず、体勢を立て直す。 スカリエッティが管理局の内部に強く食い込んでいることは嫌と言うほどわかっている。 手の内を明かし、協力関係となったレジアスは陸の長でありながらスポンサーの一人であるし、レジアスの話しによれば更にその上に当たる者達も彼と繋がっているらしい。 クロノ達が未だに捜査に梃子摺っているのも致し方なかった。 「やあRX」 「何の用だ…!」 スカリエッティが視線を動かす。 それに釣られて意識を向けるまでも無く、RXの目にはその背後でなにやら操作しているウーノの姿が入っていた。 ツンと澄ました顔に、それなりに付き合いのあるRXはウーノが憤っていることはわかった。 それについてか、RXへ一瞥を送るウーノにも気付いていたが、RXは黙ったままスカリエッティの対応をしようとしていた。 「お願いがあるんだ。実は君に後処理を頼みたくてね」 「後処理だって?」 尋ねる光太郎の前に、ウーノが手元で何か操作すると新たな画面が開く。 シグナム達や、その場にいない六課の隊長達にも盗み見られながら開かれた画面には暗い路地が映っている。 「勿論六課の諸君も私の居場所を探りながら見てもらって構わないよ」 「ふざけるな…っ、貴様の悪事に手を貸す気はないっ」 「今回は貸してくれるはずさ」 余裕たっぷりに言うスカリエッティの視線は開いた画面上に映る路地を見つめていた。 通りから入ってくる日差しにひび割れた壁が浮かび上がり、くぼみに溜まった汚水や散らばった破片などが暗がりの中で光を反射していた。 RXが向かおうとした現場に近いようだが、詳しい位置まではRX達にはわからなかった。 すると、その情報が画面に加わり、ウーノが画面の向こうでため息をついていた。 「クアットロが少しミスをしてね「ドクターの責任ですわ!!」…す、すまなかったね。あー、出てきたようだね」 激に珍しく引きつった笑みを見せてスカリエッティが言う。その後ろに立つウーノがスカリエッティに冷め切った目で見下ろしていた。 言われるままに皆が目を向けると路地の奥から水色の透き通った体をした人のようなものが画面の中に入ってきた。 微かな光を放っているせいで、暗がりの中でもその姿ははっきりと確認する事が出来る。 見当がついたのか、RXは烈火のごとく怒り体は青く染まりかけた。垣間見せたのはその人のようなものと良く似た青色だった。 ウーノさえ微かに表情を変えたそれを見るスカリエッティは少しばかり申し訳なさを顔に表していた。 「…フゥ、どうも気が強くなり過ぎているんだが、どう扱えば良いのかね?」 「貴様ッ!! また彼女達を改造したのか!?」 「いやそうではなくて……クアットロだと言っているじゃないか」 やれやれとスカリエッティは肩を竦めて頭を振る。 目はRXが刹那見せた色を追ってやはり無理かと嘆いていた。 「困ったものさ。私は君のゲル化は我々の技術では再現できないから止めろと言ったんだがね。形だけはどうにか」 「もったいぶらずに言ったらどうだ。ジェイル・スカリエッティ…!!」 RXと同じく怒りを目に灯してシグナムが言う。 同じ思いでザフィーラも画面を睨みつけていた。 遠くでは六課の他の面々もそうであろうが、スカリエッティは特に気にした風もない。 「だから、彼女を殺してくれればいいんだ。勿論私から報酬も出す。以前君に渡しそびれたデバイスを送らせてもらう」 「助け「見たまえ。不完全なゲル化から時折ああして元の姿に戻るんだが」 助けると叫ぼうとする声に被せて、スカリエッティは失敗したバイオライダータイプ戦闘機人を指差す。 そこには初めて出会った頃のウーノやセッテと同じスーツを見につけた少女が、体の一部を透明にしたままの姿で映っていた。 髪は色を失っていて、RXにも顔見知りの誰かなのか新しい誰かなのか判断が出来なかった。 「彼女の姉妹達の要望で私も手を打ったのだがね。ゲル化する度に自我等の、今の彼女の情報が壊れていくのさ。苦痛も伴う。それで―何も分からなくなって飛び出してしまった」 言う間に、少女はまたゲルと化してどこかへ消える。 「これだから私達が追いかけるのは無理なよ…ほぉ、見たまえ」 スカリエッティの指示で、画面が引き伸ばされる。 今消え去ったゲルの一欠けらがそこでは蠢き、壁に突撃して新たなひび割れを作り出していた。 「どうやら一つに戻る事も出来なくなりつつあるようだ。暴走状態のゲルは少量でも一般人には危険だろうねぇ」 スカリエッティがRXを見る。 RXの姿はいつのまにか、よりスマートに。 その心情を現して常よりも鋭い印象を持たせる形を持ち、青く染まっていた。 「そうだ!! 奇跡を起こしてくれてもいいね」 ウーノがまた手元を操作して、スカリエッティはニヤニヤと喜んでいるようにしか見えない深い笑みを浮かべた顔のままで天を仰いだ。 「ああ、今度は大通りに出たようだ。そろそろ誰かが食われるかも」 「ウーノッ、場所を教えろ!!」 「送ったわ。マスクド・ライダー」 怒鳴り声に微かに眉根が動き、素っ気無い返事が返される。 操作の後微かなタイムラグが生じていたのだろう今また新たな画面が開き、RXと似たゲルを見て叫ぶ人々が映った。 車がゲルに突っ込み、通り抜けながらゲルの一部を弾き飛ばす。 RXはそれを見る前に己もまたゲルと化して現場に向かっていた。 「ッ、RXめ。私も連れて行けばいいものを…!!」 シグナムが口惜しげに言う。 示された場所は、彼女の今の移動能力では時間がかかりすぎる。 「いやいや。君達は君達でそろそろレリックを守りに行かなければ行けないと思うがね」 「何を知っている?」 「私の所にはレリックを運んでいる列車がガジェットに襲撃されたという情報が届いているのだが。もしかしてまだ上で止められているのかな?」 あくまでもスカリエッティは愉しげだった。 そんな情報は確かに入っていなかったが、シグナム達は確かめないわけにもいかず六課の足はそこで止まってしまった。 後にスカリエッティの言葉どおり出動要請は出されることになる。 だが、六課の隊長であるはやてから出動要請が出されるのはそれから一時間以上後のこと。 その日教会本部へ出向いていたはやてに連絡を取り、出動の恐れがあることを確かめる間に致命的な程の時間が過ぎ去っていった。 外へ出向いていたフェイトだけは情報を受け取り、車を向かわせる。 だがどれほど急いでパーキングエリアに車を停めて、能力を制限するリミッターに歯がゆい思いをしながら現場に向かって飛ぼうとも直ぐにとはいかなかった。 制限を受けてさえ六課で最速の彼女がたどり着くまでにかかる時間は、自由に奇跡を起こす事などできないRX。 バイオライダーが、自分を模倣しようとした科学によって死んでいく戦闘機人の少女を殺すと判断するまでには十分な時間だった。 飛び散った欠片を、欠片より鮮やかに輝く青色のゲルが押し潰す。二つの大きなゲルは共に人の形へ戻っていく。 現場に到着したバイオライダーの体から溢れる怒りの烈しさは、悲しみなどの残りの感情を仮面の奥に押し殺す事には成功していた。 だからこそより激しく空気を変えてしまう感情に怯えてゲルは少女の形を取り戻した。 超破壊エネルギーには遠く及ばないが、空気が帯電し、周囲の人工物が悲鳴をあげるように軋んでいた。 「しっかりしろ!! 気をしっかり持つんだ!!」 声だけは少女に対するせつなさを微かに見せたが、圧力がかかったように少女の体が溶けて膝が折れた。 それほど昂ぶっていても、彼は、彼の命であるキングストーンは奇跡を起こさなかった。 仮面の内で、無理なのだとはっきり悟った自分の感覚を否定し、叱咤する。 その無理が、"今の自分"ではなのか"キングストーンの力"でも不可能なのかはわからなかった。 自分に向けた感情の片鱗が複眼から微かな赤い光として零れる。 かつてゴルゴムの首領、前創世王や世紀王シャドームーンを倒したサタンサーベルの刃と同じ光の色だった。 もう理性が残っていないのかと思われた少女が微かに口を動かす。 他の人々は、近くに偶然いた陸士達もそれを聞き取る事は出来なかった。 バイオライダーの鋭敏すぎた感覚だけはなんと言っているのか理解していた。 「い………!?……チン……ク…姉…ッ…」 少女の体がまたゲル化していく。 溶けるようにして青いゲルになった少女が宙へと逃れる。 バイオライダーを模そうとしただけのことはあり、特訓に使用していた偽ライドロンをも超える速さだった。 空中にばら撒くようにゲルが散らばっていくのも構わずに同じ青色をした空へと向かって浮かび上がる。 金属的に光るせいで混ざり合う事は無いが、見るものには色はほぼ同じに見えただろう。 その動きに不意に変化が現れた。 下から吹く風に絡め取られてゲルは更に飛んでいく。 少女のゲル化に刹那後れたのは確かだ。だがしかし。 偽物を容易く上回る速度で動き出したほんの少し前までバイオライダーだったゲルは、既に少女のゲルを追い越していた。 少女を包み込むようにもう一つのゲルはその周囲を回る。 その圧倒的な動きが竜巻を生み出して、飛び散っていく細かなゲルも、まだ大きく纏まった逃げようとするゲルも一滴も残さず絡めとり、自由を奪いながら空中へと浮かび上がらせていった。 渦の中心へと、一箇所に集まっていくのかといえば、そうではない。 ゲルの飛沫が、竜巻の中で同じく散らばったより青く、力強く輝くゲルの粒によって蹂躙されていく。 一方を情け容赦なく完全に潰していく粒を混ぜた竜巻は青々と輝き、怯えていた人々の口から陶然としたため息さえ洩らさせる。 それ自体がカットを施された宝石のように煌びやかに光っているのに、日の光が加わってえも言われぬ美しささえ持っていた。 「ライダー、きりもみシュート…!!」 その竜巻の根元には、いつの間にかバイオライダーが降り立っていた。 はやてに見せられた資料の中で見た先輩の技は、急速に色を失い、力を失って消えていく。 もう一つのゲルは、影一つ残ってはいなかった。 遠くから近づいてくるフェイトの金色の髪が、複眼に映る。 額にある第三の目とも言えるセンサーや聴覚は街で起こっている事件、今日本当なら既に鎮圧していた事件を捉えていた。 『RXっ!!』 魔法の力でフェイトの声が届けられる。 事件が解決し、RXも無事であることを確認して安堵した声はRXの体には心地よく響いた。 RXは頷いて走り出した。助けられた人々から声がかけられる…その波の中を抜けて、犯人の下へと突き進む。 「事件を解決してくる」 彼女の声を聞き、顔をあわせて労いをかけられるよりも先に、助けを必要とする状況が光太郎の心を掴んでいた。 前へ 目次へ 次へ
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リリカルなのはFeather クロス元:超者ライディーン 最終更新 07/12/29 第0話[天女たちの事情] 第一話「覚醒する天使」 第二話 「天使VS戦乙女」 TOPページへ このページの先頭へ
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RXの方はゲル化して、地上本部の構造材の中を滑り落ちていった。 ゲル化したRXの速さを持ってすれば今住んでいる六課宿舎の部屋までは、一瞬で移動が可能だった。 数秒とかからずに部屋に戻るとすぐにゲル化をやめ、RXへと姿を変える。 移動中に感じ取っていた気配の方へと彼は変身を解かずに顔を向けた。 どういうわけかキッチンで調理中のフェイトに向けて話しかける。 「ただいま。今日は何をしてるんだ?」 「…あ、光太郎さん。お帰りなさい。お仕事お疲れ様でした」 何か考えごとをしていたらしく、一瞬遅れてフェイトは笑顔を見せた。 暖めていた鍋の中身を小皿に移して渡そうとする彼女の考え事が何か気になりはしたが、RXはそれを尋ねはしなかった。 引越しを手伝ってもらった時に鍵を渡してそのままになっていたのだが、近頃彼女は誰かにそそのかされたのかよく出入りするようになっていた。 始めは仕事のことを話すだけだった。だが今は不意に他愛ない相談を持ちかけられたり、戻ると部屋が片付けられていたりする。 「偶にはご馳走しようかなって思って…お食事まだですよね?」 料理を作っていたことはわかっていたが、RXは戸惑いながら皿を受け取った。 鳥肉をトマトスープで煮ているらしい。味見用に渡された小皿の赤いスープからはおいしそうな香りが漂っていた。 「い、いや、俺は太陽の光を浴びるだけでいいんだ。変身を解くわけにはいかないだろ?」 「そんなことありません。ここは光太郎さんの部屋ですし、誰か来たらすぐに変身すればいいじゃないですか」 さあ、と勧められたRXは変身を解くかどうか迷い体を硬直させたが、感想を聞きたそうにするフェイトにジッと見つめられるとRXは観念して変身を解いた。 人の姿に戻った光太郎は促されるままに席に座り、スープに口をつける。 久しぶりに取る食事を、光太郎はお世辞抜きにおいしく感じた。 風呂に入ったりするのと同じように、食事を取る必要はないのかもしれない。 ただ人間のふりをするのは単純に愉しいのだ。 「美味い…」 「よかった…!! 光太郎さんの好みに合うか心配だったんです」 嬉しそうな顔を見せて、フェイトはテキパキと自分の部屋から持ってきた皿を用意していく。 ウーノと暮らすようになってからの習慣で、光太郎もフェイトに尋ねて用意を手伝おうと後に続いた。 料理を盛った皿を渡された光太郎は、殺風景だった部屋にいつの間にか置かれているテーブルへ並べていく。 「…これも君が持ち込んだのかい?」 その途中で、他にも部屋の物が増えているのに気付いた光太郎はフェイトに尋ねた。 「え? は、はい。部屋が寂しかったから…なのはに相談して。ご、ご迷惑だったら持って帰ります」 「いやっ、実は昔同じようなのを枯らしたことがあってね」 声を窄ませるフェイトに光太郎はばつが悪そうに、だが懐かしそうに言う。 昼夜を問わず出動していくから手間のかからないものを選んだのか、サボテンの入った小さな鉢植えが窓際に置かれていた。 「だったら、私が時々見に来ますから大丈夫ですよ」 「それは助かるけど、フェイトちゃんも忙しいだろう」 「サボテンの世話位大した手間じゃありませんから」 サボテンの世話位で遠慮する光太郎が可笑しくてフェイトが少し笑った。 それを契機に食べだした光太郎へフェイトはお茶を飲みつつ幾つか話を振った。 自分の仕事の近況や、なのはが毎晩遅くまで新人達の訓練のことを考えていて、無理をしないか少し心配だということ。 光太郎は料理の出来を気にしながら話し続けるフェイトの言葉に耳を貸し、時折相槌を打っていた。 話は近日ホテル・アグスタで開かれるオークションのことに及び、フェイトは空中に開いたウィンドウに当日着ていくドレスを表示させる。 「母さんがあれもいい、これもいいって、何着も勧めてきて選ぶのが大変だったんですよ」 「ははっそりゃあ、大変だったね」 会った回数は余り多くないが、リンディがフェイトに色々なドレスを進めている様子は簡単に想像がついた。 その時のことを思い出して、困ったように眉を寄せるフェイトを見ながら光太郎は笑う。 「そうだ。その事で話がある」 箸を止める光太郎に談笑して緩んでいたフェイトの表情が引き締められる。 その場で座りなおして、話を聞く体勢を作る彼女の真面目さを好ましく思いながら光太郎は言おうとして、周囲に目をやる。 魔法による盗聴も今の光太郎は感じ取ることが出来るようになっていたが、RXの姿を取っている時よりも精度は下がってしまう。 勿論部屋に戻る度に確認していたが、これまでのスカリエッティの行動から警戒してしまうようになっていた。 「そんなに気にしなくても、ここは安全です。私達を信じてください」 「すまない。今日レジアスから話を聞いたんだが、警備する日の前後にミッドチルダにロストロギアが持ち込まれるって情報が入ったらしい」 「レジアスって、レジアス・ゲイズ中将ですか!?」 「前に話さなかったかい?」 「だって、光太郎さんを追跡するって公言してた人じゃないですか…」 口にこそしなかったが、フェイトの表情には不信感がありありと浮かんでいた。 海や聖王教会などとは組織運営に対する姿勢に根本的な違いを持ち、レアスキルを嫌うレジアスは黒い噂も絶えない。 それにスカリエッティを追い続けているフェイトには、スカリエッティを援助してもいる男は信用するに値しないのだろう。 レジアスには何度も犯罪者を引き渡し、軽く話をするようになっていなければ光太郎もレジアスを信用することは出来なかっただろう。 光太郎はフェイトを説得する言葉を持っていなかった。 「あれは、俺が管理局に所属してなかったからさ。彼らに犯人を引き渡していたのも知ってるだろう? 俺は彼を信用している」 「私達は信用できないと言っても、ですか?」 「ああ」 フェイトは納得がいっていない様子だったが、光太郎は構わず話を続けた。 両方とも悪い人間ではないが、レジアスの方でもはやての事を犯罪者呼ばわりしていることを考えれば、今話を続けてもこじれるだけだ。 「当日。俺はアグスタに行きたいんだが、フェイトちゃんはどう思う?」 当日開かれるのは骨董美術品オークションには取引許可の出ているロストロギアが幾つも出品されている。 密輸取引の隠れ蓑になっているという話もあり、こんな話が今耳に入ってきたのはホテルの方に何かあるのではないかと光太郎は考えていた。 フェイトの方も、話を続けても拗れてしまうだけだと思ったのか、光太郎を追及せずに手を口元に当て考え込む。 光太郎は残っている料理を食べながら彼女の答えを待った。 「…いいんじゃないでしょうか? このタイミングで、というのが私も気になります。ホテルの方から光太郎さんを引き離す為かもしれません… それに、光太郎さんのスピードなら大抵の場合どちらでも間に合うと思います。本局の方から誰か派遣してもらえないか、明日なのは達と相談してみましょう」 「そうだな…そう言えば、ヴィヴィオは元気にしてる?」 「はい! また光太郎さんに会いたがってますよ」 彼女の意見に頷いて、光太郎は再び彼女との時間を楽しもうと、フェイトの家族のことへ話を戻す。 それから暫く、フェイトはヴィヴィオの学習能力が高いことが分かってからというもの、リンディ達がいかに大喜びで英才教育を施しているかを話して聞かせた。 光太郎も喜んで話しを聞いていたが、時間が過ぎていくに連れて時計を気にし始める。 普段は余り遅くない内に切り上げるようにしているのだが…時間を気にする光太郎に気付き、フェイトもバルディッシュに時刻を尋ねた。 若干機械的な音声で返事が返されると、彼女は不意に俯いた。 「それと…あの、」 「なんだい?」 「実は……ライドロンのことで新しいことがわかったんです」 「え?」 「スカリエッティがどういった手口でライドロンを持ち去ったのか、母から連絡がありました」 「本当かいっ!?」 「は、はい。それが、どうやらスカリエッティと以前教えていただいた戦闘機人が翠屋に客として何度か出入りしていたことがわかりました」 「翠屋?」 驚く光太郎に説明を聞いた際の自分の姿でも見たのか乾いた笑みを少し見せ、フェイトは続ける。 「えっと、なのはのご両親が経営されてる店です」 「確かな話なのか? なんでそんなことを…」 「軽く変装していたようですけど、背格好や言動から見て間違いありません。理由は恐らくライドロンを手に入れる為…当日、その二人がトランクを店に置き忘れて後で取りに来るという連絡があったそうです」 その中身に思い至り、拳を握り締める光太郎の手を取り、フェイトは頷いた。 言葉にはしなかったが、照明に照らされた二人の表情には良く似た色が現れていた。 「取りに来たのはライドロンに乗ったスカリエッティだったそうです」 * 数日後、機動六課が警備を命じられたホテル・アグスタはミッドチルダ近郊の森の中に建設されていた。 ホテルを中心に、はやての守護騎士と新人4名、RXが外を、はやて達隊長3名が会場の中で警備に当たる。 詳しい情報を本部から受け取った後、人質と同化して助け出したことがあるのを知っていたはやての判断で、六課は現場の人員を本部に残さなかった。 一帯にある森は、人の手で育てられたもので、不自然に感じないよう程よくランダムに配置された若いまっすぐに伸びた木々が枝葉を茂らせていた。 舗装された道はないが、人が通りやすいように用意された道や広場が点在していて、事件が起こった際には六課に配備されたヘリが離着陸出来そうな広さを持つものもあった。 ホテルの屋上に到着すると、はやて達隊長3人は会場内の警備を行う準備をする為に一旦別れる。 その間に、他の面々は移動中に説明のあった位置の警備につく為、分かれていった。 RXは、はやての守護騎士の一人シャマルと共に屋上に残っていた。 「シャーリー。こちらは準備完了したわ」 『こちらも完了しました。反応があり次第ご連絡します』 魔法によってホテルを中心にした警戒網を張り巡らせ、後方支援部隊と通信を切ったシャマルは自分に向けられる視線に気付いてRXへ顔を向けた。 六課の皆が配置についていく様子や、シャマルの魔法を物珍しげに見ていたRXは、シャマルに訝しげな視線を向けられてようやく自分の仕事を始める。 RXの体には様々な能力がある。 複眼には、ただ超人的な視力だけでなく、透視の機能も付与されていた。 元々の視力が常人とは比べ物にならないため、これを使いRXはシャマル達のセンサーよりも遠方をよりクリアな状態で把握する事が可能になるのだ。 だがその時、普段より口数が少なくなっていたRXの前にモニターが開いた。 場内の警備に着く準備をすっかり整えたはやて達が、RXや移動中の隊員の前に顔を見せる。 緊急の際も一瞬で着替えることができるバリアジャケットの便利さのお陰で、会場内に入るはやて達は普段見慣れないドレスに着替え、いつもより厚く化粧を施していた。 どや?と軽い調子で着飾った自分達の感想を尋ねられたRXは、当たり障りのないほめ言葉を言う。 オークションに招待されている、考古学者でもあったユーノ・スクライアや、その護衛につくヴェロッサの所に顔を見せに行く為一旦モニターが切られると、RXは息をついた。 「災難でしたね」 「ああ。直ぐに周囲を見ておかないと…こんなことで接近に気付かなかったら後で怒られる」 「センサーにはまだ何もかかってませんから、そんなに気にする事はありませんよ」 シグナムや、エリオとキャロについていったザフィーラを少し恨めしく思いながら、RXは周囲に目を走らせて行く。 六課の現場にいる人間では数少ない男性なのに、ザフィーラは犬の姿を取っている時は、必要なこと以外喋らない。 お陰でエリオ達等は、ザフィーラは犬の姿を取っている時は喋れないと勘違いしていそうな程だ。 RXが透視の機能を使い、邪魔なものを透かして周囲を見渡すのに頼りにするのはやはりというか、動物的な勘だった。 だがそうやって視界を変えると、今までに無かったものが見えるようになっているのにRXは気付いた。 生物から揺らめく生体のオーラが、生命エネルギーの美しい炎が見える。 他の光に混ざって今までは見えづらくなっていたせいで気付かなかった。 だが、気付いてしまえば、RXが透視を止めても、隣に立つシャマルやシグナム、はやての守護騎士達とティアナ、フェイト達の炎が違うことにさえはっきりわかる。 「RXさん。何か見つかりましたか?」 「い、いや…もう少し待ってくれ」 シャマルの声で我に返ったRXは、再度透視して周囲を見つめる。 すると…今度こそ直ぐに森の中を接近してくる複数の機動兵器と怪しい二人組みを発見することが出来た。 ゆっくりと接近してくるスカリエッティのガジェット・ドローンは、まだまだ事前に教えられていた警戒範囲の外だ。 それに比べ、二人組みはもう既に索敵範囲内に入っている。 フードを被って顔を隠していたが、これも透視すれば問題はない。 一人は女の子。もう一人は大柄な男性…探索用の小型の虫が手に止まり、デバイスらしきグローブも見えた。 「RX。何か見つかりましたか?」 「ガジェットが陸戦1、35。陸戦2が4機…それに怪しい二人組みがいる」 「二人組み…スカリエッティの戦闘機人ですか?」 懸念を口にしたシャマルにRXは首を振った。 「そうじゃない。(俺にも細かい所はよくわからないが、)女の子は人間だ。男は、普通の人間じゃあない」 「? はやてちゃんに連絡しておきます。シャーリー!!」 空中にモニターが開く。 スカリエッティの使っているものとほぼ同じタイプの画面に、周辺の図と隅に小さく会場内にいるはやての顔も映されていた。 シャマルがはやてに怪しい二人組みの事を報告する間、RXは彼らの動きを見張り続ける。 説明を聞いたはやては、すぐに視線を森へと向けるRXへと口を開いた。 『RX、その二人に接触して危険やからアグスタの中に避難するように説得してくれる?』 「了解した。拒んだらどうすればいい?」 『そうやなぁ……気絶させて連れてきて。もし敵やったら、RXの判断に任せる。シャーリー、センサーに反応あったら直ぐに教えてな』 頷き、RXは瞬時にバイオライダーへと姿を変えた。 RXの足でもそう時間はかからないが、向かう途中で敵兵器が警戒網の中へ入り込むことは明白だった。 だがバイオライダーとなり、ゲル化して向かえば少しだが時間の余裕が得られる。 ゲル化したRXが、屋上から消えた。 木々をすり抜け瞬く間に二人の前に移動したバイオライダーはゲル化を止めて、目の前に突如現れたゲルから変身した怪人に驚く彼らへとゆっくり近づいていった。 説得するのにもしかしたら良い影響を与えると思ってか、二人に近づいていく間にまたRXへと姿が変る。 彼らまで後2歩という所まで近づいた所で、RXは足を止めた。 それを見計らったように、スカリエッティが軽薄な笑みを浮かべて彼らの前にモニターを開いた。 『ごきげんよう騎士ゼスト、ルーテシア。それにRX』 「スカリエッティ!!」 「ごきげんよう」 「何のようだ」 瞬時に殺気立つRXを気にも留めず、スカリエッティは二人に笑顔を向ける。 『あのホテルにレリックはなさそうなんだが、実験材料として興味深い骨董が一つあるんだ。一つ協力してはくれないだろうか? 君達なら実に造作も無い事のはずなんだが』 「ここは危険だ。悪いが俺と来てくれないか?」 「…断る。レリックが絡まぬ限り互いに不可侵を決めたはずだ」 騎士ゼストと呼ばれた男はスカリエッティに返事を返して、槍型のデバイスを起動させる。 それを見たRXもいつでも襲いかかれるように体勢を変えた。 今にも戦い始めようとする二人にわざとらしいため息をついて、スカリエッティは残る一人の少女にお願いする。 『ルーテシアはどうだい。頼まれてくれないかな』 ルーテシアは、幼い頃に光太郎と同じように管理局の手引きでスカリエッティに引き渡され、改造を施された。 目をつけられた理由は、人造魔導師素体としての適合度が高かったメガーヌ・アルピーノの娘だったから。 その母親は、スカリエッティの基地に侵入し、撃退されて以来ずっと…今もスカリエッティに囚われ、眠り続けており、『母が復活した時、自分の中に「心」が生まれる』とルーテシアは硬く信じていた。 そんなルーテシアに、スカリエッティは自分なら眠り続ける母親を目覚めさせる事が出来ると彼女に囁いて…利用していた。 「いいよ」 まだ幼いルーテシアは、特に不満も抱かずにスカリエッティの言葉を信じている。 それを知るゼストが苦々しい顔を見せる。 「!? こんな奴の言う事を聞いちゃ駄目だ!!」 迷う様子も無く了承したルーテシアに詰め寄ろうとするRXを、ゼストの槍型のデバイスが間に入り込んで阻む。 既に覚悟を決めたのか、穂先と同じ刃のような硬い光が目には宿っていた。 「すまんが、今はまだ捕まるわけにはいかん」 ルーテシアの盾になるようにゼストはRXと対峙する。 ゼストは、かつて時空管理局・首都防衛隊に所属するストライカー級の魔導師だった。 レジアスとは互いに理想について語り合った親友の間柄であり、スバル、ギンガの母クイントと、ルーテシアの母メガーヌを含む精鋭達を率いていた。 8年前、戦闘機人事件を追っていた彼は、親友であるレジアスによって捜査から外されることとなった。 上から指示されていたのだろうが、レジアスが正式に辞令を下す前にゼストにそのことを告げていた事から、同時にゼストを危険から遠ざけるという意志もあったのだろうと思われる… だがレジアス自身に黒い噂が付きまとうようになっていた事もあり、(実際犯人とレジアスの間には癒着があるのだが)ゼストは逆に捜査を急ぎ、部隊を率いて機人プラントと目される『施設』の調査に向かった。 その結果、そこで戦闘機人と、後に『ガジェット』と呼ばれる機械兵器の大群による襲撃を受け、部隊は全滅した。 ゼスト自身もそこで死亡したのだが、人造魔導師素体としての適性が認められたことでスカリエッティの手によって、彼は人造魔導師として『復活』した。 部隊を全滅させ、死亡扱いとなったゼストの目的は、『今一度レジアスに本心を問いただし、もし誤った道に進んでいるなら、可能であればその道を正す』。 そして、捜査を強行したことは記憶にないのか『8年前自分と自分の部下達を殺させたのはレジアスなのか』確かめ、『ルーテシアの目的を果たす手伝いをする』ことを心に決めている。 どれもまだ果たせていない。 特に、ルーテシアの目的を果たすには、まだスカリエッティとは協力関係を続けなければならないのだ。 RXを相手取るのはリスクが高いが、スカリエッティの前であっさりと捕まるわけにはいかない。 『シャマル先生、センサーに感…ガジェット・ドローン陸戦1型3、4、5…陸戦2型も確認できました!!』 RXの耳に、シャーリーの通信が届く。 制限時間が迫っている事を知り、RXは少しずつ彼らとの距離と詰めていった。 二人の神経を逆撫でする朗らかな笑い声がモニターから流れた。 『優しいなあ。ありがとう。今度是非、お茶とお菓子でも奢らせてくれ。君のデバイス『アスクレビオス』に私が欲しいもののデータを送ったよ』 「うん。じゃあごきげんようドクター」 『ごきげんよう。吉報を待ってるよ』 そして一人愉しそうに笑うスカリエッティは、そう言ってモニターを閉じた。 だが、それでスカリエッティがこの場の様子を探るのを止めるはずもない。 迎撃に向かう守護騎士達が光の帯を空へと描くのが、RXの複眼に映り、RXとゼストの間で緊張が高まっていく。 不測の事態を防ぐ為にRXの四肢に力が籠もり、ゼストは、ルーテシアがスカリエッティの欲しいものを手に入れる間バイオライダーを相手取り、その後この場から離脱しなければならないようだ。 「ルーテシア。ここは俺に任せて目的を果たせ」 ルーテシアはバイオライダーをちらりと見てから、グローブ型のデバイスを起動し、最も信頼する『ガリュー』、次いで今回の目的を果たすのに必要な他の虫を召喚する。 黒い楕円形の繭のようなものが、グローブに埋め込まれたデバイスの上に出現するのを見て、RXが警告する。 「奴の悪事に加担するのは止めろ!!」 「マスクド・ライダー。ここは退いてくれ。俺達にも引き下がれない理由がある」 「それは出来んッ、何故奴に協力するんだ!?」 「言葉で語れるものではない…っ」 ゼストはあえて話し合わずに、相手の隙を窺った。 二人のやり取りを無視して、ルーテシアは繭を優しげな手つきで撫でながら、スカリエッティのお願いを説明する。 「ガリュー、インゼクト達にドクターの探し物を探させるから、その間相手をして」 繭がルーテシアの言葉に返事を返すように巨大化しながら、一瞬だけ強く光りを放つ。 そのまま繭は消えて中から現れたガリューは、RXに少し似ていた。 鋭い棘のある甲冑のような外皮を持ち、目は四つ。額にはRXの第三の目らしきものがあり、マフラーを見につけていた。 上腕から、鉤爪が伸びてRXに向けられる。 ガリューのことを余程信頼しているのか、ルーテシアはそのまま恐らく『インゼクト』を召喚する為の魔法を行使し始めた。 「くッ…止め」 耳障りな音がRXの言葉を遮る。 黒い皮膚の上に刃が打ち込まれ、弾かれたデバイスが大きく流される。 説得を続けようと体勢を僅かに動かしたRXに、隙を見出したゼストが一撃を見舞ったのだ。 渾身の一撃を片腕で弾き飛ばされたゼストが、未だに残った威力で震えるデバイスを握り直し宝玉の埋め込まれた刃を突きつける。 デバイスを弾いた腕にはうっすら細い線が引かれているのが、宝玉とゼストの目に映った。 そうすると震えは止み、同時に今度は下から掬い上げるような一撃が叩き込まれる。 今度はかわされたが、ゼストは素早く切り返し息もつかせぬ攻撃を開始した。 RXが反撃に移ろうとすれば、そこへガリューが光弾を、あるいは腕の甲から爪を伸ばして格闘を挑み、RXの動きを阻害する。 その間にルーテシアは新たな召喚を終えていた。 紫色の光が魔方陣を描き、少女を下から照らす。 周囲には半透明の膜に包まれた小さなタマゴが連なり、三本の柱となって現れている。 彼女の命令で、膜は弾け魔方陣と同じ色に光っていたタマゴは消えて、中から丸いプレートにバランスを取る尾と、虫の羽の着いただけの機械虫が飛び立っていく。 それを見てルーテシアの下へと注意を向けるRXにゼストが切りかかる。 RXがそれを受け止め、力を加減して押し合いに持ち込む。 「止めろッ!! 何故奴に協力する…!?」 「言ったはずだ。言葉で語れるものではないっ」 虫がホテルと、守護騎士達が迎撃に向かった方へと向けて飛んでいくのを見て、RXはゼストを押し退けシャマルへ連絡を取る。 「すまない。召喚された虫がそちらに向かった。説得は難航している」 『わかりました。こちらのことは任せてください』 報告する間にも放たれた光弾を無視して、RXはルーテシアへ向かい動き出した。 大した威力もない光弾は、着弾の衝撃にさえ慣れてしまえば脅威ではなかった。 今までより鋭く切り込んできた槍を、RXは足を止めて拳を振るい叩き落す。 RXが光弾を無視するようになったのを即座に察したのか、ガリューは光弾を撃つのを止めて、ゼストと共に間断無くRXへと襲い掛かっていった。 それに対処しながら、RXは少しずつルーテシアへ距離を詰めていく。 進行を阻止する為にRXの前に立ち塞がろうとするガリュー…だがその背中にルーテシアの声がかかる。 「ドクターの探し物、見つけた…ガリュー、お願いしていい? 邪魔な子はインゼクト達が引き受けてくれてる」 お願いをされたガリューは一瞬だけ逡巡する様子を見せたが、RXを退けることが先決であると考えたらしく、伸ばした爪をRXへと向けなおした。 RXも、ある程度他の場所の状況を知っているのか、狙いをルーテシアからガリューへと移す。 「待て!! 奴に実験材料を渡すわけには行かない…!!」 『フルドライブ・スタート』 穂に埋め込まれた宝玉が感情の無い音声で告げた『フルドライブ・スタート』と共に、ゼストの魔力が爆発的に増大する。 それは金色のオーラとなって彼の肉体とデバイスを輝かせ、周囲を照らしだす。 光りが納まり始める前に、尚も説得を試みようとするRXへとゼストは最初から全力で槍を突き出した。 ほんの一歩分の距離をゼストが通り過ぎる余波が、台風のような風を作り出して木々から葉を吹き飛ばし、枝を折って舞い上がらせる。 激突する音に気付いた者達がもし目を向けていれば、雲が吹き飛ばされそこだけ一面青空となった空に土と共に舞っているのが見えただろう。 ガリューに襲い掛かろうとしていたRXは、突き出された穂先は防いだものの衝撃に弾き飛ばされ大きく後退した。 RXの腕にひびが入り、ゆっくりと回復が始まる。 相当に負担がかかるのか、威力を警戒するRXの真っ赤な複眼には一瞬だけ苦痛に耐えるゼストの表情が映って消えた。ゼストが言う。 「ガリュー、ルーテシアの命令に従え。ここは俺が何とかする」 光の帯となって、ガリューがホテルへと向かって飛んでいく。 阻もうとするRXへと先ほどまでとは別人のような強さでゼストが襲い掛かった。 ガリューへ注意を向けたRXとゼストの距離は瞬く間に縮まり、また風が生み出される。 先を取って襲い掛かる槍の穂先とRXの腕が衝突し、その度に吹く風がルーテシアの華奢な体を押し退けようとする。 絶え間なく騒音も生み出され、目を白黒させるルーテシアに気を配る余裕も無く、ゼストは渾身の一撃を振るっては喉を上ってくる血と痛みを飲み込んだ。 皮膚が砕けていくだけに留まっているRXに対して、元々欠陥を抱えるゼストの体は、壊れつつあった。 この調子で戦い続けては死んでしまうかもしれない…だが、スカリエッティの頼みをルーテシアが引き受けた以上は、ある程度まではやってみせる必要があった。 だがRXは無情に、時折不調によって鈍るゼストの一撃をいなして、胴体や頭部へ一撃を入れることはおろか、回復を上回るのも困難になりつつあった。 『RX! こちらは大丈夫です。なのはちゃ』 その時、通信もRXとゼストの衝突が生む音と風も纏めて弾き飛ばす桜色の光線が空を焼いた。 驚いて動きの止まった二人は思わず空を見上げ、空からボロクズにされたガリューが自由落下してくるのが目に入った。 二人はそのまま、なんとなく一歩ずつ下がり…ガリューが地面に突き刺さる。 足が微かに動かなければ、彼らはもう死んでいると勘違いしてしまったことだろう。 「ガリュー!?」 「ガリュ…!?」 ルーテシアが駆け寄り、ゼストは大きな声を出そうとして血を吐いて倒れた。 何が起こったのかは把握したものの、RXは戸惑い動きを止めた。 判断を誤り、ルーテシアを確保するチャンスを逃したRXが後ろへ飛ぶ。 口から流れる血を拭いもせずにゼストが起き上がり、槍を横に振るっていた。 増大していた魔力は萎み、光は消えて気迫だけが、槍には込められていた。 「ル、ルーテシア……転送魔法を使え。早くッ!!」 直ぐに動き出さなかったルーテシアを急かし、ゼストは再び立ち上がった。 『フルドライブ・スタート』 再び、弱まっていたゼストの魔力が増大していく。 それと反比例してゼストの容態が悪化していくのが、RXにはわかった。 ホテルの近くでティアナ達を叱責するヴィータの声も聞き取るほどの聴覚や、センサー等から得ているゼストの身体データは異常な数値へと変っていくこと。 更にはゼストの生命エネルギーの炎が勢いを失くしていくことが、複眼に映っていた。 "ち、違うんです!! 今のは私がいけないんです!!" "うるせー馬鹿共!!もういい!! 後はあたしがやる。二人まとめて、すっこんでろ!!" どうやらティアナが無理をして誤射をしてしまったらしく、六課の誰かが援護に来るのにまだ時間がかかってしまうことは明白だった。 目の前で残り少ない命をすり減らす男をどうするかは、依然RXの手に委ねられているのだ。 彼らから離れ、彼らが直ぐに転送魔法で逃げれば、もしかしたらスカリエッティの手によってゼストの命は助かるのかもしれない。 スカリエッティの手で、先日殺した不完全なゲル化を行った戦闘機人のようにされる可能性も勿論あるが…RXは向かってくる槍を握り締めた。 「…もう止めるんだ!! 今ならまだ…」 掌に食い込んでいく穂先を包む指が鮮やかなオレンジ色に染め上がる。強度を増した皮膚が突き抜けようとする刃を押し返していく。 全力の一撃を受けるRXの体は、ロボットのような姿へと変貌していた。 ロボライダーへの変身を瞬時に遂げた光太郎に、ゼストは驚きながら口から大量の血を吐きながら尚も動き続けようとしていた。 RXは言葉を切った。 受け止めた腕が槍を横へ逸らしながら引き、ゼストの体勢が強引に崩される…そして握り締められた拳が、ゼストの体へと打ち込まれた。 『フルドライブ』は止み、ゼストは更に血を吐く。徐々に鼓動を弱めながらも、まだゼストの体は脈打っていた。 「ゼスト…!?」 それを見て、転送魔法を使おうとしていたルーテシアが声を挙げる。 ルーテシアとやっと地面から這い出したガリューへロボライダーの、RXであった頃よりも硬く冷えた複眼を向けられる。 進入路を読んだなのはにより桜色の破壊光線を叩き込まれ、深いダメージを受けたガリューの動きはぎこちなく、見る影も無い。 だが怯えながらもガリューは立ち上がり、ロボライダーへと向かおうとする。恐怖に駆られたルーテシアが、叫びながら魔法を発動させた。 二人の姿は消える。 ロボライダーが掴んだゼストの体は、まだ残されていた。 ゼストの体を地面に横たわらせ、ロボライダーの右手が銃を握る形で太ももへ添えられる。 転送魔法が完全ではなかったのか、能力の限界なのか…まだ狙撃できる距離にルーテシアは出現していた。 障害物が透かされ、生物から揺らめく生体のオーラが、生命エネルギーの美しい炎が目標の位置をより鮮明にロボライダーに把握させる。 そこはまだ、ボルテック・シューターを使えば容易く打ち落とせる距離だった。 だが引き金を引けばガリューと少女を同時に貫いてしまう事になるだろう。 今ゼストが息を引き取ろうとしている原因はフルドライブによる負担だけではない…魔法と違ってRXの肉体は、とても不便な事に、容易に肉体へ回復不能のダメージを与えてしまうのだ。 ボルテック・シューターを構えた腕が落ちる。 『RXさん大変です!! クラナガンで事件が発生し、貴方に救援要請が来ています!!』 「わかった。直ぐに向かう…」 仮面からは、今の感情を読み取る事はできない。 「すまない。男の方は倒したが、少女の方は逃がしてしまった」 『わかりました。こちらで出来るだけフォローをしておきます。今は事件の方をお願いします』 RXはゲルと化して、首都へと戻っていった。 元々スカリエッティの処置に問題があったのか、多大な負担を体に強いた直後にカウンターを加えられたゼストは収容された後治療の甲斐なく再び命を落とした。 既に死亡したことになっていた彼の遺体は内々に処理された。 前へ 目次へ 次へ
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リリカル犬狼伝説 クロス元:犬狼伝説 最終更新:07/10/07 プロローグ『ある事件の結末』 ・ACT1 『捨て犬』(前半) ・ACT1 『捨て犬』(後半) ・ACT2 『猟犬 -ヤクトハウンド-』(前編) カオスJOJO クロス元:ジョジョの奇妙な冒険 ※完結 第一話 真のクロス職人の巻 風に帰る戦士の巻 魔法成人リリカル某 クロス元:スプリガン 【第一話 それは不思議な出会いなのだッッ!!】 第二話『魔法の呪文はリリカルなのだッッ!!』前編 第二話『魔法の呪文はリリカルなのだッッ!!』中篇 第二話『魔法の呪文はリリカルなのだッッ!!』後編 その1 TOPページへ このページの先頭へ
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ホテル・アグスタの警護を滞りなく果たした六課は、主催者側からの賛辞を得てまた通常の任務に戻っていった。 ホテルでの一件は、参加していた六課の人員に強い影響を残していた。 簡単な検査を行った後、六課はゼスト・グランガイツの遺体を引き渡したが、彼と取り逃がしたルーテシアについて詳細な調査を行った。 その結果、幾つか六課にとって驚くべきことが判明していた。 ゼストは、管理局局員で既に死んだはずの男だった。 ルーテシアは、ゼストと共に全滅した部隊にいた局員の娘で、全滅後暫くしてから消息を絶っていた。 命令が行く前にゼスト達が行動を起こした為、ゼストの部隊が全滅する直前に調査任務を解かれていたことは記録に残っておらず六課は知ることは出来無かった。 だが、レジアス中将の親友だった事は判明しており、個人的に顔を合わせる機会のあるRXが詳しい話を聞くことになっている。 ゼストについては、結果的に再び殺してしまったRXのショックが大きかったようだが、他の皆はスカリエッティに対する義憤を燃やすことで、気持ちの整理をつけるのは(簡単にとはいかないが)不可能では無かった。 戦闘機人事件を追って殉死した局員が改造を施されまだ生きていたことは許しがたいが、まだ対処できる問題だった。 だが遺族、それもまだ年端もいかない子供が、行方不明となり全く接点の無かったはずの犯罪者に従っている。 恐らくはなんらかの改造も施されているというのは、自分達の所属する組織に対する信頼を揺るがしていた。 自分に何かあった時…家族が自分を殺した犯罪者に引き渡され、犠牲になるかもしれない組織にこれまでと変らない態度で勤務を続けられる程、六課に集められた人員はタフではなかった。 陸のボス『レジアス・ゲイズ』がスポンサーの一人なのだから何を今更という話だが、実はそのこと自体がまだ六課の殆どの人間には知らされていない。 最終的には上へ報告され、レジアスは職を辞する事になるだろう。 だが、現状その事を利用しているし、何より六課の『本当の設立理由』を果たす為にはレジアスの能力があった方が対処しやすいからだ。 有体に言ってしまえば、レジアスの事を教えられた者達にとって今レジアスがいなくなるのは困るのだ。 話を戻そう。 レジアスのことは教えられたRXからクロノやはやてら数名が教えられ、そう判断したがゼスト達のことは六課の殆どの人間が知っており、皆関心を払っていた。 結果、調査結果は六課の隊員達に瞬く間に伝わったのだった。 将来有望で、才能溢れる若きエリートが集められた六課だからこそ強く作用しているのかも知れない。 世界を救った経験はそこそこに積んでいるからこそ、彼らはまだ理想を持って仕事をこなしていた。 だからこそ彼らはその結末の悪い例を見せられ、強く動揺していた。 だがそんな彼らの中で最も若い人員が集まる前線部隊は、それとは別の「…だから強くなりたいんです!!」 「少し、頭冷やそうか…」 低く抑えた声の直後、なのはの腕に光弾が6発生まれ、その一発がティアナへ撃ち出される。 ティアナが何時も使っていたクロスファイアシュート…それもティアナのベストデータと同じものに調整されたものが直撃する。 爆発の中に消えるティアナの名を、スバルが悲痛な声で呼んだ。 新人達4人のチームリーダーを務めるティアナが、煙の中から現れる… また彼女自身が常日頃使っているのと同じ魔法は、後5発分用意されている。 だがティアナが複数の誘導弾を放つ所をなのはは1つに集めた。 そうして砲撃のようにして撃ちだすことで生み出された、同じ魔法とは思えない威力がティアナを襲った。 「ティアナアァァァァッ!!」 前線部隊は、また別の問題を抱えているようだ。 「エ、エリオ・モンディアルですが、職場のふいんきが最悪です」 なのはのお仕置きを受けて意識を失ったティアナは、医務室へ運ばれていく。 このまま残しておいても身が入りそうにないスバルとお仕置きをしたなのはも、一緒に医務室へと歩いていく。 なのはは、模擬戦の途中でデバイスを解除し、手に傷を負ったのでその治療を行うためでもあった。 容赦のない落とし方に呼吸するのも忘れていたエリオの肩に手が置かれた。 肩を叩かれて、我に返ったエリオは自分の肩に手を置いたRXを見上げる。 腕組をし、厳しい表情のヴィータや、心配そうになのはを見るフェイトを背景に見上げたRXの顔からは、何も読み取る事が出来なかった。 * 通常の勤務に戻った新人達は、また訓練漬けの日々に戻っていた。 その日もまた訓練の成果を見るために行った午前中最後の模擬戦。 新人4人の内、先ずティアナとスバルの2人が模擬戦を行った。 2人はその中で、訓練中には全く使用しなかった(恐らくは二人で特訓して編み出したのだろう)戦法を見せた。 その何がなのはの逆鱗に触れたのかエリオ達にはわからなかったが、なのははデバイスを解除し、その状態で二人を完膚なきまでに叩き潰した。 「次はエリオ達の番だ」 「は、はい…! ティアナさんのことは」 「心配ない。なのはちゃんは教え子を傷つけたりしないさ」 なのはの腕を信頼しているらしく、RXの声は自信に満ちていた。 「そうだよエリオ、キャロ。ちょっと派手に倒されちゃったから心配するのも分かるけど、ティアナのことは大丈夫。今は自分達の事をしっかりやらないとダメだよ」 「わ、わかりました…!」 「フェイトさん…はい!」 二人に言われ、これまでのきつい訓練のことを思い出したエリオ達は素直に返事を返し、模擬戦に挑みに行く。 RX・フェイト・ヴィータの3人が残され、模擬戦の場所へ向かう二人が扉を閉める音が響いた。 「ティアナちゃんも心配だけど、なのはちゃんは大丈夫なのか? 3人は上手くいってると思ってたのに」 ティアナを撃墜するなのはの様子が普段とは違っていたせいかRXが言う。 「はい…なのはの事は、私が後でフォローしておきます」 「頼んだぜ。なのはの奴、訓練が終わった後も夜遅くまであいつ等の為になんかやってたからな」 ヴィータの言葉にフェイトは頷いて、デバイスを起動した。 「じゃあなのはの代わりに私が二人の模擬戦をやりますね」 フェイトが空へと浮かび、直ぐにエリオ達の模擬戦が始まった。 「ティアナも昔ちょっとあってさ。なのはに何も言わずにあんなことやったのは、多分そのせいだな」 「そうか…」 ティアナは天涯孤独の身だ。両親は彼女がごく幼い頃に事故死し、以降は管理局の局員だった兄ティーダに育てられてきた。 だが、ティアナが10歳の頃彼もまた職務中に殉死してしまう。 その際、兄が所属していた部隊の上官から無能扱いされた事をきっかけに、「兄の魔法は役立たずではない」と証明するため、ティアナは管理局入りを志したのだ。 だからティアナは、強くなるため、証明するためには無茶をすることがあり、なのは達はそれを気にかけていた。 本人以外が軽々しく話すような事情ではないのだろうと、RXはその内容について尋ねはしなかった。 「……なぁ、お前はアレ、どう思った?」 「ティアナちゃんのことかい?」 「ああ」 「…俺は専門家じゃないから良くわからない「お前の意見も聞いときたいんだ。いいからはっきり言えよ」……よくわからないんだ」 模擬戦の行方を見ながら、RXは言う。 「何のつもりで特攻したのか、俺にはわからない」 ヴィータがRXの方を向くと、少し口篭りながらRXは付け加えた。 二人が最後に見せた作戦は恐らくこうだ。 スバルが突撃し敵に食らいついて撹乱を行い、足止めされた敵を更にティアナが近接戦に突入し、スバルのブレイクとティアナのダガーの同時攻撃により敵の防御を破壊し制圧する、というものだ。 撹乱するだけでなく、ティアナが幻術を使うことで敵に正確な位置を悟らせないよう工夫されており、接近戦用にティアナは新しくデバイスの先に刃(ダガー)を形成する魔法も習得していた。 「そういえばあの魔法、(俺は初めて見たんだが、)前から使ってたのか?」 考えている内に気付いたのか、RXはヴィータに尋ねた。 「いや、あたしもはじめて見た。ヴァイスから最近訓練の後個人的に特訓してるって報告が上がってたから、多分それで覚えたんだろ」 「そうだったのか…なのはちゃんには基礎をやるようなことを聞いていたから、精度を上げたりする為の特訓をしてると思ってたんだが」 だが、スバルに空中に浮く敵までの足場を用意させてティアナが接近戦に突入する理由はRXにはわからなかった。 彼女等が相手にする相手には、補助魔法もかかっていないティアナが割り込む余地などない。 何より、RXもティアナの気持ちを把握していなかった。 「………現場では絶対に使って欲しくないな」 「そだな…陸で普段扱ってた事件なら使い所もあるのかもしれねーけど。あの馬鹿…焦ったせいで、六課で求められてるのがもっと上のレベルだってこと、忘れてんじゃないか?」 エリオとキャロの動きをチェックしながら、ヴィータが悩ましげに言う。 近接魔法を覚えたのは、将来はフェイトと同じ執務官を目指しているためかも知れない。 それにもし警備の一件があった後からあの魔法を覚えたのなら賞賛に値する。 だが、それは個人的に見せればいいもので、模擬戦に持ち込むとなると当然のことながら評価の基準は大きく変る。 もう素人ではないのだから、恐らくティアナはその上で本気で最低限の水準にはあると判断したのだろう、とヴィータは考えた。 だが六課が想定している相手は、例えばスカリエッティの一味、ガジェットや戦闘機人だ。 スバルやエリオに近いレベルで接近戦を行うスキルがあるのなら話は別だが、今のティアナのスキルでは自殺行為に等しい。 模擬戦ででも、選択肢に入るようなものではない。 まして、高速で空中を自由に飛び回っているなのは相手に、スバルにそこまでの足場をわざわざ作らせてまで行うなど正気の沙汰ではない。 「…まさかティアナの奴、模擬戦を自分の能力をアピールする機会と勘違いしてんのか?」 「え?」 RXに返事を返さず、ヴィータは顔をしかめた。 手塩にかけて育てようとしている教え子に(本人にそのつもりはなかっただろうが)、突然捨て身で接近戦を挑まれたなのはが受けたショックの大きさを考えていた。 捨て身など、なのは達は全く教えた覚えがない。 二人は、模擬戦が終わるまで一言も口を利かなかった。 先の二人があんな形で撃墜された事が尾を引いているのだろう。 最初は動揺が見られたが、悪くない出来だった。 「もう終わりだな…RX、悪いけど」 「気にしないでくれ。二人の様子がわかったら俺にも教えてくれ」 「ああ。サンキュー。ちょっとなのはと話すから、終わってもあいつ等は連れてくんなよ」 RXと別れたヴィータは、医務室へ向かって床を蹴る。 心配から自然と急いでしまうヴィータは、元から然程距離の離れていない医務室までの距離をものの1,2分で移動し、治療を受けたなのはと知らせを聞いて様子を見に来たシグナムの二人と鉢合わせた。 ヴィータの姿に気付いた二人が話しを止める。二人に言われて先に上がらされたのか、スバルの姿はそこには見えなかった。 「ヴィータ、訓練はどうした?」 「あれヴィータちゃんどうしたの?」 「お前らの様子を見に来たんじゃねぇか」 「大げさだなぁヴィータちゃんは。怪我って言ってもこれだけだよ? ティアナは疲れててまだ目が覚めないけど心配する事なんて」 そう言ってなのはは絆創膏の貼られた手を見せる。 「そっちじゃねぇ!! ティアナのことだ」 「ティアナは、ちょっと頑張りすぎちゃっただけだよ。今は疲れで眠っちゃってるから、起きたらお話ししないと」 「頑張ってじゃねーだろ。あの馬鹿、混乱してるだけじゃねーか」 「ヴィータちゃん…そうじゃないよ。ティアナは、短期間で戦力を増やそうとして」 「ふざけんな。お前だってわかってんだろ…お前の足が止まって、しかもお前は幻術で一時的にティアナの位置を見失ってた。もしリスクの高い接近戦なんか挑まないで、普段通りクロスファイアシュートを使ってても確実に当てられたはずだ!!」 なのはのティアナを庇おうとする態度に苛立ったのか、ヴィータが声を荒げた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「無茶して味方を撃っちまったから、近接魔法覚えましたって射撃型魔導師が、どんな風に見られると思ってんだ!? あたしが指揮官ならそんな奴怖くて使えねーぞ!!」 ティアナに求められているのは、センターガード。 このポジションは、チームの中央で誰よりも早く中・長距離戦を制する役目であり、同時に他のポジションへの指示を含んだ前線での戦術レベルの指揮能力も求められる。 あらゆる相手に正確な弾丸を選んで命中させる判断速度と命中精度は必須だ。 そのセンターガードが、味方に誤射を繰り返せば…無論必須となる判断速度と命中精度が低く、他のポジションを把握しているかが疑わしくなる。 だが別に、なのは達はホテルでの誤射は問題視していなかった。 しかし、自分の命を無意味に危険に晒すような戦術を選ぶような者… それも事情を知る人間から見れば、生い立ちから射撃に拘っていたティアナが、射撃に自信を失くしたとも取れる選択をしたことは大きな失点だった。 「私も、基本的にはヴィータの意見には賛成だ…これでまだ駄々を捏ねるようなら、一度甘ったれた根性を叩き直してやらねばならん」 シグナムまでヴィータの辛辣な意見に同意する。 なのはの表情が一瞬曇る。そんな彼女等の背に声がかかった。 「そこまでや二人とも」 「はやてちゃん」 二人の事を聞いて様子を見に来たらしいはやては、なのはの元気そうな様子を見て安堵した様子だった。 特に、はやてと共にやってきたシャーリーの様子は大げさな程だった。 「模擬戦中トラブルがあったって聞いて来たけど、なんや。思ったより深刻みたいやな」 「大丈夫だよ…私に任せて!!」 なのはが殊更明るい笑顔で言う。 はやてもにっこりと笑ってそれに応じた。 話しを聞いていたのか、ティアナの様子については尋ねなかった。 「勿論や!! ティアナは六課の期待の新人なんやから。頼むで、なのは教導官」 「はい、はやて大隊長!!」 その様子にヴィータ達も矛先を納めたのか、困ったような顔で笑う。 和らごうとした雰囲気に水を差すように、シャーリーが口を開いた。 「でも、どうしてティアナちゃんは、なのはさんに相談しなかったんでしょう?」 「ん~…それもそうやなぁ。それがわからんと今後同じことが起きる原因になるかもしれんし」 医務室の前で皆暫くティアナの事を考えて見たが、どうしてなのは達に一言の相談もせずにこんな真似をしたのか思い至る者はいなかった。 誤射した事をティアナが大きなミスと考えていることも、他の隊員達と自分を比べて自分には才能がないと劣等感を感じていることもなのは達の誰一人として気付いてはいなかった。 「ま、ここでずっと考えてても仕方ないし、お昼にしよか」 理由がどうであれ、全てはティアナが起きてからと彼女等はそれぞれの仕事に戻る為食堂に向かっていった。 「あ、そうだ。アイツラにも教えてやらないとな」 その途中、ヴィータは模擬戦の評価をしているであろうフェイトらにティアナの容態を連絡をした。 ティアナがまだ目覚めるには時間がかかると教えられた新人達は心配そうな顔をしていた。 昼休憩に食堂の雰囲気を悪くするテーブルが一つ増えるのは確実だろう。 なのは達が連れ立って食堂に到着すると、食堂の中は案の定これまでにない憂鬱な空気を漂わせていた。 一緒に訓練を上がった後、4人はいつも共に食事をしている。 都合がつけば隊長達がその近くのテーブルで食べ始め、皆で談笑しながら食べる事になる。 なのはにお仕置きされ、ティアナもいない三人のテーブルはそんな光景を見慣れた人間には、物寂しく映った。 他にも何組か食堂の雰囲気を悪くしている者達がいたが、はやてはゼストの件については特に心配はしていないし、彼女の方から何かするつもりもなかった。 六課の隊員達は相談する相手も持っていれば、時間さえあれば自分自身で折り合いをつける強さも持っているという自信がはやてにはあった。 それに六課のムードを作り出すのは、結局の所隊長達。そして今雛鳥から脱しようとしている新人達だ。 彼女等はこの問題では全くぶれない。 隊長達は言うまでもないし、新人達もそれぞれ故人やなのはやフェイトといった人物への思慕が強いからだ。 だからはやてとしては、六課は放っておいても徐々に調子を取り戻すだろうと確信していた。 だがそれと手塩にかけて結成した部隊をかき乱されて気分がいいかというのはまた別の問題で、はやてはなんとなく恋人の唇を奪われた紳士のような気分でぼやきながら食堂へと入っていった。 「スカリエッティ…あんたがこうなることを狙ってたんならそれは予想以上の効果を挙げたで」 100倍返しにしてやることを誓いながら、表面的にははやては笑顔を浮かべ続けた。 はやてが六課を良い方向に向かわせると期待している新人達の一人が目覚めたのは、日が完全に落ちてからのことだった。 * 日が落ちた六課のヘリポートで、幾つもライトが点けられる。 前線部隊の輸送用に六課に配備されたヘリが闇に浮かび上がる。 六課の隊長達、目覚めたばかりのティアナも含めた新人4名が駆け足でヘリの傍に集合していく。 「今回は空戦だから、出撃は私とフェイト隊長、ヴィータ副隊長の三人」 先ほど東部海上にガジェット・ドローン2型が多数確認されたことを受けて、彼女等に出動命令が下ったのだ。 確認されたガジェット2型は以前確認されたものよりも格段に性能を増しているという報告が上がっていたが、それでも三名で容易く蹴散らす事が出来ると彼女等は判断していた。 「皆はロビーで、出動待機ね」 「そっちの指揮はシグナムだ。留守を頼むぞ」 集まった彼女等は新人達は緊張していたが、隊長達は笑みさえ浮かべリラックスしており、午前中の騒動などなかったような様子だった。 だがティアナに顔を向けたなのはの顔に気遣うような色が浮かぶ。 「ああ…それからティアナ。ティアナは、出動待機からはずれとこうか」 「その方がいいな、そうしとけ」 皆が色を変える中、逸早くヴィータが同意を示した。 ティアナが俯くのを見て、なのはがまた口を開き理由を付け加える。 「今夜は体調も魔力もベストじゃないだろうし」 「言う事を聞かない奴は、使えないって…事ですか?」 俯いたままティアナが沈んだ声を出す。 その言い草に、なのはが眉を吊り上げて厳しい声で言う。 「自分で言ってて分からない?当たり前の事だよ、それ」 反発するようにティアナの顔が上がり、焦りに満ちた目がなのはに向けられる。 「現場での指示や命令は聞いてます。教導だってちゃんとサボらずやってます。それ以外の場所での努力まで、教えられた通りじゃないと駄目なんですか?」 目に涙を浮かべて言うティアナに、ヴィータがムッとした顔で詰め寄ろうとする。 だが二人の間をなのはの腕が遮り、ヴィータは足を止めた。 物言いたげにヴィータは、なのはの横顔を見る。なのははただ悲しげに、ティアナの目を真正面から見返していた。 他の者達も皆、ティアナの感じていた想いをジッと聞こうとしていた。最も近くにいた新人達さえ、意外そうな顔をしていた。 「私は!なのはさん達みたいなエリートじゃないし、スバルやエリオみたいな才能も、キャロみたいなレアスキルもない。少し位無茶したって、死ぬ気でやらなきゃ強くなれないじゃないですか!?」 横合いからティアナの胸倉が掴まれ、顔に拳が叩き込まれる。 ティアナがそんな風に考えていたとは思いもよらなかったのか、皆反応が一瞬遅れていた。 「「シグナムさん!?」」 「心配するな、加減はした。駄々をこねるだけの馬鹿はなまじ付き合ってやるからつけあがる」 ただ一人、特に変った様子もないシグナムはそう言って、ヘリを横目で見る。 「ヴァイス。もう出られるな?」 「乗り込んでいただければ、すぐにでも」 ヘリのパイロットを務めるヴァイス曹長が窓から顔をだし笑顔で答えた。 緩やかにヘリのプロペラが回り始める。 殴り飛ばされ、倒れたティアナをスバルが駆け寄って抱き起こした。 だがティアナはすぐに立ち上がろうとしない。 そんな様子を心配そうに見遣ったものの、フェイトがヘリに乗り込んでいく。 「ティアナ!! 思いつめてるみたいだけど、戻ってきたらゆっくり話そう!!」 「だから、付き合うなってのに」 なのはの腕を引いて、ヴィータが連れて行く。 ヘリの窓から顔を見せながら、フェイトが念話でエリオ達に言う。 "エリオ、キャロ。ごめん、そっちのフォローお願い" "は、はい""頑張ります" 半ば反射的に、返事を返したものの二人の子供は自分から何か動き出す事は出来なかった。 3人を乗せたヘリが飛び立ち、ヘリポートにはシグナムと新人達が残された。 見送りを終えたシグナムの厳しい視線が、ティアナに向けられる。 「目障りだ。いつまでも甘ったれてないで。さっさと部屋に戻れ」 フェイトに後を頼まれた幼い二人が、慌ててシグナムとティアナの間に入り、この場を収めようとする。 だがティアナを抱き起こしていたスバルが眉間に皺を寄せ立ち上がった。 「シグナム副隊長」 「なんだ?」 威圧感を感じてか、これから言おうとする事に対する答えを恐れてか、スバルは暫し口を噤んだ。 「命令違反は、絶対駄目だし、さっきのティアのものいいとか、それを止められなかった私も駄目だったと思います」 立ち上がろうとしていなかったティアナが顔をあげ、スバルを見た。 声を震えさせながら、スバルはシグナムへ言う。 「だけど、自分なりに強くなろうとか!!きつい状況でも、何とかしようと頑張るのってそんなにいけないことなんでしょうか!? 自分なりの努力とか、そういうこともやっちゃいけないんでしょうか!?」 徐々に体まで震えさせながら答えを欲しがるスバルにシグナムは表情を変えず、直ぐに答えることもなかった。 「自首練習はいいことだし、強くなるための努力も凄くいいことだよ」 代わりに、暗がりから返事が返される。ライトが照らし出すスバル達の所へと出てきたのは、オペレーターをしているはずのシャーリーだった。 「シャーリーさん…」 「持ち場はどうした?」 「メインオペレートはリィン曹長がいてくれますから」 「なんかもう、皆不器用で、見てられなくて…皆、ちょっとロビーに集まって。私が説明するから、なのはさんのこととなのはさんの教導の、意味」 いつになく張り詰めた表情で、シャーリーは言った。 後ろを振り返らずにロビーへと向かうシャーリーの後に、待機を命じられた全員がゆっくりと着いていった。 手の空いている者を皆ロビーに集めたシャーリーは、なのはの過去を語り始めた。 魔法を覚え、フェイトと出会った事件から始まり、なのはが重傷を負い、リハビリに励む映像迄シャーリーは新人達に見せた。 その間にフェイトが執務官試験を二度落ち、今でもそれを言われると凹む程気にしていたが、それには触れなかった。 「もう飛べなくなるかも、とか。立って歩く事さえ出来なくなるかもって聞かされて、どんな思いだったか」 「無茶をしても。命を懸けても譲れぬ戦いの場は確かにある。 だが、お前がミスショットをしたあの場面は、自分の仲間の安全や命を懸けてでも、どうしても撃たねばならぬ状況だったか?」 腕を組んだシグナムは落ち着いた声で、いつの間にか俯いていたティアナに言う。 「訓練中のあの技は一体誰のための、何のための技だ」 「なのはさん。皆にさ。自分と同じ思いさせたくないんだよ。だから、無茶なんかしなくてもいいようにぜったいぜったい、皆が元気に帰ってこれるようにって。本当に丁寧に、一生懸命頑張って教えてくれてるんだよ」 微かに潤んだ声でシャーリーが言い、彼女等は暫く誰も動きを見せなかった。 陸の手伝いを終えて六課に戻ってきたRXが、ロビーに漂う湿った空気に足を止めるまで誰も。 RXが戻ってきた事に気付いたザフィーラの合図で、シグナム達もRXに気付き席を立つ。 俯いて何か考えているらしいティアナへ時折顔を向けながら、RXは合図をして自分を呼ぶシグナムの元へと歩いていった。 二人は彼女等の目に入らない通路まで歩いていく。 適当な所まで移動し、シグナムは後ろからついてくるRXに言う。 「RX。お前は何も言うな」 「ど、どうしてだ?」 戸惑うRXは、早足でシグナムに追いつく。 「余り褒められた手ではないが、シャーリーが上手くやった。後はなのはがなんとかするだろう」 「どういうことだ?」 言いながら、RXが腕を掴んで、シグナムの足を止めさせた。 覗き込むように上半身を屈めてRXは顔を近づける… 「褒められた手ではないって言うだけじゃさっぱりわからない。教えてくれてもいいだろ」 「……あ、あぁ…いや、いいから。今は放っておけ。どうしても知りたければなのはに許可を貰えたら教えてやる」 腕を放させ、さっきより足早に歩き出すシグナムの態度に釈然としないものはあったが、RXは一先ず頷いておいた。 少し離れたシグナムが振り向く。彼女は早口にRXに言い放って、また歩いていく。 「わかったな? わかったら、今は任務中だ。待機していろ。いいな」 「わかった」 自分がシグナムにしたことに何か問題があったのか考えているらしく、RXは離れていくシグナムの背中に顔を向け直ぐには動かなかった。 30cm弱もの身長差があるとはいえ、シグナムはそんなことで怯むような人ではない。 考えても仕方ないと思い至ったのか、RXは一応自分が待機する場所として定められている場所へと向かった。 * 同じ頃、スカリエッティの研究所の一部が爆発を起こし、そこから放たれた矢のように一筋の光が外へと飛び出していた。 尾を引いていた光が収まり、進行方向をそれに備え付けられたライトが照らす。 今はまだ見えない家へ向けて、バイクを走らせていたのはセッテ。 姉に従いスカリエッティの元へ戻った彼女は、成り行きではあったが、目的を果たしたこともあり一足先に戻る事を決めた。 彼女がスカリエッティの元へと戻ったのは己の力不足を感じたゆえのこと。 暮らしていく間に親密になっていたが、それでもセッテは時折壁を感じることがあった。 その壁の一枚をセッテは実力不足のせいだと考えていた。 光太郎が見ていたムービーの中で、特訓を行うことでより強い力を得るという方法も見つけることは出来たが、突然現れた創造主がより手っ取り早い手段を彼女に示した。 自分の記憶や人格にまで手を入れられないか不安もあったが、ウーノを始めとする姉妹達がそれを阻むだろうと予想して、セッテは姉と共に光太郎の下から去り、創造主の実験に手を貸す賭けに出た。 だからこそ、姉妹の一人を死なせることになったクアットロの行いをセッテは到底許す事が出来なかった。 一歩間違えればセッテが対象だったかもしれないし、何よりスカリエッティ以外の、よりにもよって姉妹からこれまでより残虐な実験が成された事が衝撃だった。 にも関わらず、クアットロは相変わらず茶化すような態度で再改造を終えたセッテの前に現れたので……セッテはその顔を思いっきり殴りつけた。 壁にクアットロがめり込むなり、即座にアラームが研究所内に鳴り響き、モニターが開く。 「ウーノ姉さま」 『セッテ!! 貴女何やってるのよ!?』 「思わずカッとなって…」 『こ、光太郎の悪い所ばかり真似して…』 「お兄様は色々とアレなエピソードには事欠きませんが、こんなことはしませんよ」 呆れてものが言えなくなったのか、ウーノは無言でセッテの目の前に脱出経路が描かれた別のモニターを開く。 描かれているものが何かすぐに理解したセッテは、確認しながら走り出す。 変身するまでもなく、蹴り飛ばされた扉が壁にめり込み、彼女はアラームが鳴り響く廊下を駆けていった。 「ありがとうございます。お礼にお兄様とあったらフォローしておきますね」 『それは誤解よ。ドゥーエじゃあるまいし私は』 地図に従い水槽の並ぶ通路を通り抜けたセッテは、足を止めた。 一瞬の間を置いて、セッテは振り返り、水槽の並ぶ通路へと戻る。 そこには紫色の髪を伸ばした少女が水槽を見上げていた。 「おいお前!! このアラームは何なんだよ!?」 その肩に掌サイズの少女(…聞いた話では確か融合型デバイスらしい)もいて、セッテに状況を尋ねてくる。 二人の事は、クアットロから聞かされていた。 ルーテシアはアラームや、セッテの事を気にも留めずに一つの水槽を見上げていた。 水槽の中には彼女の母メガーヌが眠っている。地図を表示したモニターに向かって、セッテは言う。 「ウーノ姉さま。ルーテシアとメガーヌも連れ出します」 『ちょっとセッテ!? 貴方何を言って』 「出来なくはないはずですね。後でメガーヌを目覚めさせる方法を教えてください」 そう言って、セッテは無防備なルーテシアに拳を叩き込む。ルーテシアから引き離そうと融合型デバイスが炎を作り出すが、ブーメランブレードをぶつけてそちらも気絶させる。 モニターの向こう側でウーノがどんな顔をしているか…見ないようにしてセッテは両肩に荷物を背負って脱出ルートへと戻っていった。 片方には少女と融合型デバイスを、逆の肩には鞄を背負うように母親が入ったままの水槽を。 水槽の方は見た目には無茶もいい所だが、肉体を強化されているセッテには余裕で持ち運べる程度の重量でしかない。 荷物を背負いながら通路を駆け抜けたセッテは、通路の先にある扉を蹴破って、置かれていたバイクを見つけて笑みを浮かべた。 戻って以来、久しぶりに見る愛車は以前より少しばかり棘棘しい外観になっていたが、構わずに彼女はバイクに飛び乗る。 セッテの意志によってエンジンにすぐ火がついた。 どれ程注意を払っても片手で持ったままではメガーヌが水槽の中でちょっとばかりシェイクされてしまうかもしれないので、セッテはバインドを使ってブーメランブレードに水槽を括りつけた。 強化を施された彼女の武器は、デバイスあるいはガジェットに使っている技術を搭載しているのか水槽を括りつけられたまま宙に浮かび、セッテの意志に従って動き始めた。 気絶させたルーテシアと彼女の肩に乗っていた融合型デバイスをバイクの腹に乗せ、愛車が走り出す。 愛車の改造は既に終わっているのか、以前よりも更に彼女に馴染んだ。グリップ一つとっても、実に良く馴染む。 スカリエッティの手腕にゾッとしながらも、ウーノの指示した通りの道を使い、セッテは施設から脱出していった。 車体が生み出す熱、肌にぶつかっていく風を感じて気分が落ち着いたせいか、衝動的に動きすぎている自分にセッテは少し違和感を覚えた。恐らく改造を施された影響による一時的なものだろうか? 無計画過ぎて、クアットロが死んだかどうかも確認できなかったし…姉であるクアットロを殴りつけたことを後悔していないが、スカリエッティの考えで動いているのではとは思いたくなかった。 クアットロにも強化がされていない限り、再改造でよりパワフルになったセッテに殴られて生きてはいないだろうが。 …そんなことを考えながら荒野を走り続けて暫く、セッテは後ろを気にするのを止めた。 ルーテシアまで連れ出したのに追っ手が来ない。妙だが、ウーノが上手くやったのだろうか? 彼女は呟いた。 「変身…!!」 甲冑が彼女の肌の上を覆い隠し、RXのデザインをスカリエッティの解釈で再現した姿へと、彼女の愛車もセッテに合わせて姿を変えた。 更に速度を増して、バイクは荒野を駆け抜けていく。音速を超え、音の壁を貫いて進む彼女の下腹部…ベルトのバックルが光り輝き、連動してバイクもその光を放つ。 ミッドチルダでは何度か確認されたレリックの光が、前面に備わったライトよりも明るく闇夜を照らした。 まだ同居していた頃に使っていた通信画面が起動し、RXの姿が映し出される。 年端も行かない子供(新人達やシャーリー)と草むらの影から妙齢の女性二人(なのはとティアナ)をストーキング(見守っていた)するRXにセッテは咎めるような目を向けた。 『セッテ…!? これは、いやそれより何故セッテが』 「…メガーヌ・アルピーノとルーテシア・アルピーノを確保してドクターの所から脱出してきました。メガーヌの回収をお願いできませんか?」 モニターの向こう側で、RXが力強く頷く。 何かを感じたセッテの体が総毛だつのは、その直後の事だった。 前へ 目次へ 次へ